天官賜福第1巻186㌻
「空殻だ」と謝憐は言った。
ある種の妖魔鬼怪は、完璧には人間に化けられないため、別の方法を考え出した。それが空殻だ。
妖魔は本物そっくりの材料をいくつか使い、精巧な偽物の人間の皮を作る。その皮は生きた人間を参考にして作られるのだが、時には本当に人間の皮が使われることもあるため、掌紋、指紋、頭髪も当選ながら完璧に仕上がる。しかもその空殻を妖魔鬼怪が自ら纏わない限り、鬼の気が付着することもなく、魔除けの呪符も意味がない。それが、扉に呪符があるにもかかわらず道士が中に入り込めた理由だった。
しかし、そのような空殻はかなり容易く見破られがちだ。
結局のところ中身が空の人形であるため、誰かが皮を被って中にいない限り、ただ操る者の指示に従って行動することしかできない。しかも複雑すぎる指示は無理で、簡単なことや反復行動など、あらかじめ設定してあることしかできないときている。
そのため、表情や態度、立ち居振舞いなどがどうしても鈍くなり、生身の人間に見えるとは言い難いのだ。例えば、同じ言葉や行動を繰り返したり、あるいは自問自答したり、はたまた会話が噛み合わなかったりで、二言三言話せばすぐにぼろが出てしまう。
だが、謝憐はより実用的な空殻の見抜き方を知っていた。
それは、飲食をさせることだ。
空殻は中身がないため、五臓六腑もない。食べたり飲んだりすると、空の壺に物を投げ入れたり水を注いだりした時と同じような反響音が聞こえる。生きている人間が飲食する音とは全く違うのだ。