会話できる帽子を買ってみてどうでしたか?(ボケクエ7 没ボケ)
◯長文
酔っぱらって購入したのが運の尽きでした。気持ち悪い!かぶり心地最悪!
大体、僕の設定ミスなのか何かわかりませんがゆうパックの冷凍便で送られてきたんですよ。あれ、生モノなんか頼んだっけと思いつつ受け取ったら荷物の中から「寒すぎる!殺すぞ」とかなんとか声がして。そりゃ怖かったんだけど同時にその倍以上の怒りが沸き上がってきました。荷物の中身は絶対に人間じゃないわけです。僕、人間以外のものが人間の言葉を喋るのが大嫌いなんですよ。インコでさえまだ気持ち悪いんだから。怒りに任せてセロハンテープを引きちぎったら、「ザ・古めかしい帽子」みたいな顔をしている煤けたブラウンの帽子とご対面です。向こうは向こうで、初めましての挨拶もなしにいきなり「かぶってくれ!」とか言うもんだから、そりゃかぶらないですよ。こいつの望みなんか1つも叶えたくない。
とにかく最悪な初対面だったわけですが、それからの日々も最悪でした。暇さえあれば玄関の壁掛けから「かぶってくれ!」「かぶってくれ!」ってもううるさいんですよ。僕、帽子じゃないからかぶってほしいっていう心理も意味わかんないし。まあその辺りで、試しに1回帽子に従ってみようという気持ちにはなりました。かぶったら何が起こるんだろうってちょっとだけ期待してる自分もいましたし。
いざかぶってみたらマジでありえなかった。一言も喋らないんですよこいつ。あれだけリビングまで響く声で叫んでた奴が、目的が達成された瞬間に何も言わない。気まずいのか何か知らんけど。もちろん表情とかはないからわからないけど、絶対引きつった顔でにやにやしてたと思う。チー牛ですこいつ。で、脱ごうとしたらボソボソっとなんか言ってきたんですよ。よくよく聞いたら「かぶってくれてありがとう」でした。何それ?「かぶってくれ」と「かぶってくれてありがとう」の間に何があるのか1つも教えてくれないのがマジで腹立ちました。
とりあえずわかったのが、こいつ不良品です。取説見たら「まるで成人女性との会話を楽しめる」商品のようでした。この触書きも結構気持ち悪いんだけど一旦置いといて、この帽子にそこまでの知能があるようには思えないし、そもそも会話が成立してないし、女子だったんかい!CV:花澤香菜って書いてるのに完全に電子音です。相変わらず「かぶってくれ」としか言わないし。
そういえば、僕が風呂から上がった時に一度だけ「私は泳げる」と言いました。泳げるわけないだろうが!死ね!
最初に「寒すぎる!殺すぞ」って言ってたのもバグなんだろうな。どうして捨てないかといえば、こいつ8万したんですよ!
ある日友人たちとバーベキューに行くことになったんですが、日差しが強かったので仕方なく件の帽子をかぶっていきました(道中3回くらい小声で感謝された)。友人たちは古めかしい帽子を見てイギリスの貴族かよと笑いましたが、割に良い気分です。川の側にテントを立て、楽しく肉を焼きました。物言わぬ帽子も楽しそうでした。テンションの上がった僕は、1人、帽子をかぶったまま目の前の川へ飛び込みました。
ですが川は想像より深く、流れは強かった。あっという間に流されてしまいました。圧倒的な水量に身体を持っていかれ、まるで身動きが取れません。もうダメかもしれないと思った時、すぐ近くであの帽子が浮かんでいるのを発見しました。余裕なんてないはずなのになぜか目が離せませんでした。
帽子がしきりに何か喋っています。浮かんでは沈むを繰り返していた僕には聞き取れませんでしたが、帽子はたしかに大声で何かを叫んでいました。そのうちに僕の記憶は途切れました。
気が付いたら病院のベッドの上でした。
偶然通りかかった泳ぎ上手のおじさんに助けてもらったようです。おじさんは自分が「泳ぎ上手」ということ以外何も教えてくれませんでしたが、少しだけあの帽子の話をしました。
「なんか帽子が大声で喋ってたよ。『私は泳げる!』って。あんまりうるせえから見に来たらあんたが溺れてたの」
僕は驚きました。帽子が泳げるわけはありませんが、もし偶然でないのなら、「私は泳げる!」とは溺れる僕を励ますための言葉だったのではないでしょうか。
「どうして助けようとしてくれたんだ」と、僕は傍らの帽子に聞いてみました。僕の方から帽子に話しかけたのは初めてです。
帽子は「かぶってくれたから」と言いました。
そしてまたいつものように「かぶってくれ!」と叫びました。病室で大声出すな!かぶるから!
なんでまだ濡れてんだよ!気持ち悪い!かぶり心地最悪!
◯その他
俺らトムとジェリーみたいっすねと言われてしばらく恥ずかしかった
帽子ならではの意見を全然言わなくてキモい
「赤ちゃん放っときましょうよ」と提案してきたから1回捨てた
1番イライラしてる時に「次のバーベキューいつですか」とか聞いてくる
ツバ折り曲げたらなんで?と詰められた
熱帯魚にエサやってるの自分だと思ってる
本読んでるとだんだん深いかぶり方になってる
ハリーポッターの奴やってくれなかった