かいじゅうのいない街

今、俺は、生まれてきたときとは真逆の姿で、生まれてきた時と同じかっこうをしている。端的にいうと、帰ってきた時の服装のままでベッドに横になっている。

気分が落ち込むのはいつも突然で、それは大抵1人の時で、大抵夜であり、大抵朝まで治らないものだ。

きっとみんな俺の曲なんて聞かなくなっていくんだろうと、なぜか唐突に確信めいて部屋の中、一人でどうしようもなく悲しくなる。

というか、そもそも、元から聞かれていないのかもしれないけど。

それでも聞いてくれていた一握りの人々が俺の知らない間に成長していって、抜け殻を残していくように俺の曲を今日という日と一緒に置き去りにしていってしまうんだろうな、と想像する。画面をなぞっているとそんなことをよく思って、とても悲しくなる。

それを唯一払拭する術は、今こうして半端な格好でベッドに横たわって、指を画面の上で滑らせている時間を使って次の曲を作り、聴いてもらうことだ。

だがこんな思考になってしまったが最後、やる気を捻り出して行動することがとても難しくなってしまう。
だからこのかっこうのままで脳内を垂れ流す文を書いている。

不安を吐露することは夢を見せることとは正反対のことで、人前やステージに立つ者としてやってはいけないことだよ、と先輩にはよく言われる。
だけど俺が歌うのはいつだって不安だ。今までだってずっと自分の中の不安を歌っていた。先輩の言う通りにするとなると、不安を吐露しながら自信ありげに夢を見せるということになってしまう。
そんなこと、大きな矛盾で、俺の場合は説得力がないんじゃないかと思ってしまう。歌っていることも嘘に聞こえてしまうんじゃないか。それがまかり通るわけがないんだ。そんなちぐはぐなモノなんて誰も聞かない。というか、自分が納得できない。

結局のところたくさんの人に求められているのは、不安と、それを乗り越えたというストーリーだ。それを聞いて背中を押されたりするものなのだ、普通は。だけどそれは、乗り越えられていない俺には歌うことができないものだ。俺が作る曲には、そんな風な効果はない。
そんなにうまくできていないのだ。世の中も、自分も。

そんなこともあってか、俺は、作曲者の人間性も込みで曲を判断しているようだと最近気づいた。

嫌いなやつが作った曲はやっぱり嫌いだし、好きなやつが作った曲はやっぱり好きだ。だから、俺にとって、曲はその人の性格を写した分身のように思える。

だから俺は、曲が聞かれなくなったら自分という存在がいらなくなったかのように思われて、とても悲しくなる。

過去を思い返してこうすればよかったああすればよかったとはたまに思うけれど、気分がどん底に落ち込むほどではなく、ぼーっとした後悔が視界の端にちらっと映り込み、横目でそれを追うような感じだ。
過去を悔やまないという点ではよくできた方の人間だと思う。

ただ、過去のことではなく、今や未来のことを想像して、気分がどん底まで落ちることがよくある。その代表が、曲が聞かれずに置いていかれてしまうという想像だ。

結局そんなことをよく思うのは画面を、SNSを開いている時だ。スマートフォンは、たくさんの人がいるこの世の中で、自分という存在がいかにちっぽけで無力かを懇切丁寧に教えてくれる。
それなのに、この小さな電気箱のなかに、何かどこかに救いがあるように思えてしまうんだ。

そこで昔が突然思い返される。幼い頃の俺は、部屋の中で画面を、ウルトラマンを見ている。たくさんの人がいる街を破壊する怪獣がいる。俺はヒーローが、助けが来るのを待っている。

そこが今の自分と重なってしまうのだ。昔から何も成長していないのだ。
画面をぼーっと見つめてただ助けを待っている。昔も今も。昔はヒーローが来てくれた。だけど今は来てくれない。

そうしてここで、昔からも、これから先も成長しないまま、おいてかれるだけの自分を想像して、とてつもなく悲しくなる。

何をするにも半端で、途中でよく投げ出してしまう自分が心底嫌いになる。助けなんて来ないから全て自分でやるしかないのに、ベッドから動けずにいる自分のことが。

俺は、曲の中で出てくるメタい歌詞があんまり好きじゃない。僕は歌ってるよ、曲を書くよ、ライブをするよ。だから曲に対するネガティブな感情は、歌詞には反映できないんだ。だからこうやって文章を書いて発散することがたまに必要になる。

この悲しさを吐き出すことで、誰かに構われて、一緒に話したいわけじゃないんだ。逆なんだ、聞いていてほしいんだ。曲を。忘れないでほしいんだ。

俺はただ、今日という日に一緒に置き去りにされたくないんだ。曲という俺の分身を、一緒に未来に連れて行って欲しいだけなのだ。

でもダメだ、頭の中の憂鬱はそんなに簡単に離れていってはくれない。誰も助けてはくれないんだ。

この街にはかいじゅうなんていないから、助けも来ないんだ。