歌詞勉強 香りと影 キリンジ
歌詞の勉強として自分なりに解釈してみました。本日よりちょこちょこ、投稿していこうと思います。この解釈が正しいかどうか分かりませんが、ちょっとでも解釈の参考になればうれしいです。
MISIAのEverythingなどを手掛ける冨田恵一氏が別名義、「冨田ラボ」として2003年に発売した"shipbuilding"の中の1曲。
冨田ラボは毎回、数人のゲストをボーカルに迎えて、全然異なったジャンル、歌詞を一つのアルバムにしています。
このアルバムでは他にも松任谷由実、ハナレグミなどが参加しています。
この曲を歌っているのは冨田氏がプロデュースをしていた、堀込高樹・泰之の兄弟ユニット、キリンジ。(現在は兄、高樹の一人)
作詞は兄、高樹氏が手掛けています。
曲調は爽やかで、疾走感のあるポップスで、それがトレンディードラマっぽさを感じさせる。
とくにギターカッティング、フルート、ドラムによって明るさ、軽快さがより前に出てくるのだと思います。
さて歌詞の話。
曲のテーマは 憧れの女性に恋をする男性 です。
この曲の主人公は恐らく20~30後半ぐらいの男性。恋人の有無は分かりません。
曲の全体を見ると、視点はつねに男性の視点、思いでつづられています。
女性については 匂いやら後ろ姿やら顔さえできていない。しかし、主人公の男性から見たその女性の美しさ、スタイリッシュさはしっかりと分かります。
しかし本当の女性の姿は分からないよう書かれています。どのくらいの年齢で、どんな性格で、など書く必要はないのです。
一目ぼれした女性に対しての一方的な思いが描かれています。
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「ちょうど今まで この場所には
あの女性(ヒト)のいた気配が
密室の恋 かぐわしさに
立ち眩んだ エレヴェイター」
まずはAメロから。自分はこの曲を聴いたとき、旅先若しくは出張先のホテルでの出来事のように感じました。
しかしそれではこの後に続く歌詞と合いません。おそらくマンションや会社などで、男性は定期的にその場所を使っているのでしょう。
少なくとも匂い、影、後ろ姿は彼女のものであると、主人公は確信しています。
そんな主人公はふと入ったエレヴェイターで、憧れの女性のいた気配を敏感に感じ取ります。密室に漂う女性の気配、あくまで気配ですがそれについ立ち眩んでしまいます。
エレヴェイターなので狭く、逃げる場所はありません。
密室の恋についてですが、確かニコニコ動画のコメントに、未必の恋と掛かっているのでは? というコメントがありました。
なるほどそうだと面白いな と当時は思いましたが、発音を見ればみっしつ と みひつ ですので、これは掛かっていないでしょう。ついでに未必の故意とは、”自らの行為が罪になる結果を発生することを望みはしないが、もし発生してしまったとしても構わないと思っている” という意味の法律用語だそうです。
もし掛かっていたとするなら、男性はこの行為について悪い、自虐的に思っているということでしょう。
それにしてもすごい歌詞です。 あの女性のいた気配が なんて普通書けません。しかもその気配をかぐわしいと言っています。実際この現状を考えると怖いですね。
しかしそれも、この軽快なリズムと上下に動くメロディによってそんなことを感じさせません。ネットではエロやかなどと書かれる高樹氏の歌詞ですが、これもまさにって感じですね。
「残り香に恋をした男の愚かさよ!」
Bメロです。「男の愚かさよ」 は自虐のような、もしくは客観的な表現ですね。僕という一人称を使っておらず、男 と書かれています。それゆえ視点が誰なのか、意見が分かれそうです。
女性が言っててもいいですし、神様、天使など第3の人物が言っているのか、はたまた主人公の頭の中で冷静な主人公が言っているのか……自分的には自虐の方で解釈しました。
Bメロは短いですが、セリフ口調なところも含め、とても印象的です。残り と 男 のリズムの良さが気持ちよく感じます。
「愚かさよー」と最後は伸ばしてサビへと向かいます。伸ばしますので、口が開く お は発音しやすく、伸ばしやすいです。伸ばすとき、高い音の時は無理のない程度に気を付けるといいと思います。
「マシンガンの鼻の先に 一輪の純情
香りの主が誰かも知らずに」
サビです。サビ頭がマシンガンから始まるのもすごいですよね。堀込兄弟は2人とも、普段歌詞で使わないような単語を入れるのがとても面白く、初めて聞くと、なんだこれ!? と思うようなことがよくあります。
さて、このマシンガンですが、恐らく女性が主人公に対して向けているものです。
主人公のハートを撃ち抜くのです。純情な主人公は、見事に撃ち抜かれてしまいます。恋をあまりしたことがないんでしょう。
初心で、なんというか童貞臭のする主人公です。
「香りの主が誰かも知らずに」 ここも自虐なのか、それとも第3者の視点なのか意見が分かれると思います。
「ロビーに響く ヒールの音
追いかけた うしろ姿
ドアが閉まり 乗りおくれた
情け無用の エレヴェイター」
さて2週目のAメロです。今度は女性の姿がちらっと見えます。後ろ姿だけですが。主人公は声を掛けるのか、それとも同じ場所にいてこの気配、
匂いが女性のものなのかを知りたいのか、その背中を追いかけます。しかしエレヴェイターは容赦なく2人の間を離してしまいます。
エレヴェイターの部分は1週目と同じですが、ここはわざとおんなじにしているんだと思います。発音的に印象的でカッコいいですし。
主人公のガッカリした雰囲気も伝わりますね。女性を見かけた理由が、偶然なのかもわかりません。
「うしろすが た 」、「ドアが閉ま り 」と1週目と発音が一緒になるように書かれています。
「残像に恋をした男に憐れみを!」
今度は憐れみを! です。主人公から女性に対して、残像に恋をした自分に憐れみだけでもどうか! ということでしょう。
残り香、つまり嗅覚を描いた1Bに対して、今回は残像、つまり視覚を描いています。
1Bとの違いは残り香と残像、愚かさと憐れみ です。よく使われる手法ですが、単語を変えるだけでも言いたいこと、内容が変わるので、ここだ!という大事な部分で使うといいでしょう。
「マシンガンの鼻の先に ひとひらの幻想
フィルムの空回しは もう、ご免さ」
1週目のサビでは"一輪"だったのが"ひとひら"になっています。同じ花の表現ですが、変えることで単語の重なりを回避できます。
そして純情と幻想。最後がou で終わりここでも発音が一緒になるよう書かれています。メロディでも伸ばす音ですのでじゅんじょー、げんそーと発音的には口を開いて歌いやすいです。
フィルムの空回しは もう、ご免さ は、未だに話しかけることもできない現状をどうにかしたいという男の心情を表現しています。もうご免さ も軽快な言い回しです。
もしかしたらここは主人公視点で、「主人公が向けたマシンガンの先は幻想だ」 と書いているのかも。
「Blind man まぶたの裏
ハレーションにかすむプロフィール
脚線美のフラッシュバック
見果てぬ白昼夢に溺れて」
Blind manは訳すと盲目な男。 これは主人公のことです。
ハレーションとは光が強く当たりすぎて画面が白くぼやけたり濁ったりする現象 だそうです。
見て分かる通りエレヴェイターに消えていった女性の後ろ姿、それも逆光によってその外見さえもはっきりわからない。
しかし脚線美だけは脳裏に刻まれ、それを思い返してしまう。いつまでも消えない恋に溺れてゆくのです。白昼夢は目が覚めているときに見ている夢という意味ですので、当てはまっていますね。
「"いくつになっても あなたが見えない
香りと影、それだけをたよりに
「これだっ!!」って恋に僕はいついつ出会う?」
ここでようやく、どれぐらいの間恋をしているのかが書かれます。改めてここだけ見ると、小さいころ、近所にいた綺麗な年上の女性に恋をしている というような風に見えますね。
おそらく後ろ姿しか見えないまま数年たっているのでしょう。
そしてタイトル回収。コーラスでファルセット。ここも印象に残ります。Dメロでのタイトル回収に気持ちよさも感じますね。
主人公は香りと影を頼りに 女性にいつ近づけるのか。いつになったら会えるのか。これだと思える恋がその女性なのか。それとも追いかけたうえで違う恋に出会うのか。
いつという言葉を2回使うほど待ち望んでいます。
「Blind man マシンガンの鼻の先に 一輪の純情
香りの主が誰かも知らずに」
そしてもう1度 1回目のサビが使われます。これもよく使われる手法です。2回、3回と使われる部分はそれだけ作詞家の言いたいことが詰まっているということでもあります。要は主役です。
ラストのサビでは最後の一文だけ変えて、印象や意味を違うものにしたり、語尾を変えることで思いを変化させたり、メロをつけ足したりなどで変えられることも多いです。そうするだけでストーリーが展開できます。
以上。少しでも考察や作詞の勉強の助けになれば幸いです。
※
キリンジは子供のころから大好きな歌手です。歌詞はストーリー性があり、言葉使いも面白く、ときにコミカルに、シリアスに、シニカルに。さまざまな表現をされています。一見何言ってるんだろうという表現もあります。それの考察をしながら聞くのもおもしろいです。段ボールの宮殿とかね。
好きな曲は誰でもあり、その歌詞には共感したりする部分がきっとあります。それが刺さることでより曲に対する思いが深くなるのだと思います。
結局は作詞家本人しか本当の歌詞の意味は分かりません。もちろん私もこれが完全に正しいと思ってません。しかし個人で解釈することは自由です。それを他人に押し付けるのはいけませんが。
ぜひ好きな曲の歌詞を一回見て、自分で解釈してみてください。もしかしたら新しい発見があるかもしれません。駄文失礼しました。
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