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迷子になると決意した途端にとても楽しい街になる『尾道』

一人旅は、私の中でとても大切な時間。心むむまま気の向くまま自由に時間を過ごす。感動の景色に泣いたりするのも悪くない。その中で大切にしてるのは好奇心と感謝。さて今回の旅はどんな旅になるのだか……


何かのご縁を大切に

『尾道は、駅から街が近くてこじんまりしてていい街だよ。だから今日は、尾道に泊まることにしたんだ。』
 昨日《仙人が酔うほどに美しい島≫と言われる仙酔島へ向かう船が一緒になった一人旅の男性に教えてもらった。旅先で知り合った人におすすめされるなんてこれも何かの運命。よし明日は、尾道へ行こう。
 《何かのご縁》
旅先ではこのご縁が大切!一人旅のいいところは、こうして予定の変更を気軽にできること。食事などお腹が空かなければ抜いてしまえばいいし疲れたら一旦ホテルに帰ってゆっくりすればいい。誰に遠慮することなく好きに時間を使うことができる。ちなみに残念なところは、夕食などでいろいろ食べたいのにお腹がすぐいっぱいになってしまうこと。


海と自転車と古刹と商店街の街

朝食をとってチェックアウトする。

宿泊した三原から電車に乗って尾道まで。車窓から見える景色は、瀬戸内独特ともいう島々の風景と暖かい空気感太陽に反射してキラキラ光る海。きっといい旅になる予感がした。
 尾道駅は思いの外近代的な駅だった。構内でマップを入手する。駅の前にある公園のベンチを見つけ一人作戦会議をすることにした。

さてこの町はどんな町なのだろう。周りを見渡すと競技用のような自転車の人があちらこちらで挨拶を交わしている。地図を見ながらこの目の前に流れるのは、川ではなく海だという事に驚く。泳いで渡れそうなほど隣の島と近いこの海は、尾道水道。

尾道は、坂手の方の《古寺巡り》と下手の《商店街巡り》そして《しまなみ海道の起点》の3つが主な観光のようだ。なるほど。朝から自転車の人が多いと思ったらしまなみ海道を自転車で渡るためなんだなと納得がいく。四国と本州を結ぶ橋は3つ。明石海峡大橋。瀬戸大橋そしてこのしまなみ海道。唯一自転車で渡ることができるしまなみ海道は、サイクリングマニアの中では有名なようで海外からの観光客も多いのだそう。レンタルなども行われていてたくさんの明るい元気な声がこだまする。旅好きの人はみんな人懐っこい。
 

『不安』と『石の案内板』と『逃げない猫』のおかげで

まだこの時間だし商店街は空いてないだろうから古寺巡りを楽しもう。ということでマップを片手にスタートする。駅まで戻り右に折れる。途中の道を左に。観光地ではこうやって携帯ではなく地図を片手に歩くことにしている。早速の尾道名物『坂』のお出まし。それもかなり急な坂。少し息が上がりながらついたのは持光寺。ここから古寺めぐりの始まり。本堂らしきところで手を合わせ3回深呼吸する。心が落ち着く。

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地図を見ながら次の寺をと思っていると石に古寺めぐりの文字とともに矢印が付いている案内板を見つる。ちょっと頼りないが地図も同じ方向を示している。あまり気にも留めず地図を見ながら先を進める。家と家の間地元の人しか通らないようなまるで人の家の勝手口から庭を通っているかのような感覚の道が続く。道が合ってるのか不安になる。家と家の間の細い道を通り階段を登る。曲がるごとにあの石が目に入る。こんな道で正しいんだろうかと携帯を手に取りたい気持ちを抑え地図を見ながら前に進む。坂道が続くと不安は頂点にまで達する。これだけ急な坂道を登って間違ってたらと思うと心が折れそうになりつい携帯に手を出しそうになる。この辺を曲がるはずだけどと思うと必ずあの石の案内板が見えてくる。そのおかげでだんだん不安に囚われた気持ちが和らいでくる。日本だし迷子になれば人に聞けばいいし坂の街なんだから下に降りればいい。いつしかそんな気持ちになっていた。スタンプラリーでもないし辿り着かない寺があればそれも仕方ない。どちらにしてもくる予定のなかった尾道へこれただけでも運命なんだから。地図を片手に家と家の間の細い道を歩きながらそんな気分になってきた。
 『にゃごぉ〜』
 なんの声かと思えば猫の鳴き声。突然の鳴き声にびっくりしながら不安が一気に吹き飛ぶ。古寺めぐりで初めて出会った第一村人はこの猫である。
 『おはにょ〜』
 挨拶を返してみる。猫には逃げられることの多い私は、逃げられるの覚悟で近寄ってみるが逃げない。私の不安を知ってか知らずかその場で寝転がっている。なんとなくこの町に認められたような受け入れられたような気分になってきた。石の案内板が目に入った。

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迷子になってもいい。石の案内板を信じで歩いてみよう。

猫から信頼された私は、そう思って地図をカバンにしまう。歩き始める。突然太陽が海に反射したきらきらとした景色が私の目の前に現れる。おはようを絵で表すとしたらこの景色だ。そう思った。地図を見て歩いてたから気づかなかった景色がそこにはあった。人の家と家の間の路地には。その家の匂いがある。ご飯の匂い。洗濯物の匂い。そしてそのすりガラスの窓から微かに見える洗剤の形。ここは、台所だろうか。石の案内板に頼ることにしてから案内板を見逃さないようにと色々な景色を見る。そこには、人々の生活の匂いと形があった。そしてキラキラした海と柔らかい温かい太陽と猫がいた。迷子になってもいいな。さっきまで迷子になったらどうしようなんて思いながら地図を片手に必死になっていた自分が懐かしくすら感じた。


迷子の結果の『パン』と『無骨なコーヒーカップ』


石の案内板が私を誘導する。気分は、謎の生き物に導かれるあのアニメの主人公のよう。途中≪ネコノテパン≫の看板を見つける。せっかくだから寄っていこう。とその看板が指す方向へ向かう。坂道の途中にある小さなパン屋さん。一人入るのがやっとという広さのパン屋さん。ネコノテパンなだけに猫の額ほどの店の中にはたくさんのパンが並ぶ。迷子も悪くない。パンを買って戻りの道を聞く。

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『古寺めぐりをしてるんですがここから近いお寺へはどういくのがいいですか?』
 石の案内板が無ければ人に聞けばいい。パンを食べながら次の寺に向かう。途中ついた場所には、神社があった。どうやら尾道の奇祭と言われるベッチャー祭がここから始まるらしい。11月の初めに行われ面をつけた氏子と獅子が神輿とともに街の仲を練り歩き子供を見つけると追い回し≪祝棒≫で頭を叩いたり体を突いたりする祭なんだとか。叩かれると頭が良くなるという言い伝えがある。とのこと。そんな奇祭があるだなんて一度見てみたいものだ。さて次の寺に進む。日向ぼっこをしてるおじいちゃんに挨拶をしながら本堂で手を合わせる。おや?こんなところにびっくりするぐらい無骨なコーヒーカップが4つも…近くに寄ってみると紙に何か書いている。《この寺の住職が焼いた尾道焼きのコーヒーカップです。よろしければお持ち帰りください。この中にお気持ちを入れれていただきますと寺の修繕費とさせていただきます。≫なんて素敵な出会い!感激した私は、4つの中から一つ選び1000円札を箱に入れる。無骨なコーヒーカップは、今私の家のアクセサリー入れになっている。

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『広島原爆』と『ラーメン』


お腹が空いてきた。ということでそろそろ商店街の方へ向かってみようと山を降りる。下に下に歩みを進めるとアーケードにぶつかるはずと思いながら歩みを進める。商店街につき酒屋さんに入っる。そのには瀬戸内レモンサワーなるものが!これは飲んでおこう。とレジへ持っていくと『冷えてるのありますよ』とのお声がけ。ありがたやありがたやと冷えてるのを購入して店先でぎゅーっと飲む。さて商店街散策。いろんなお店に入っては、物色しながら出ていく。かまぼこ屋さん頒布屋さんお土産やさん。昼食は尾道ラーメンにしようと思い立ち『日の出食堂』という店に入る、。メニューには、

昔懐かしの中華そば尾道ラーメン。昭和二十年創業『日乃出食堂』幻の味を再現した背脂たっぷりなのにあっさりした尾道ラーメン。
 
 と書いてあった。昭和20年といえば、終戦の年。そして広島に8月6日8時15分にあの原爆が落とされた年。その同じ年にほど近い尾道では、すでに食堂が創業されたという事実と人々が食堂を求めるほどに生きていたのだという事実を突然目の当たりにして呆然としてしまった。突然やってきた原爆。今でもまるで地獄のようだったと言われる。たくさんの人を一瞬にして飲み込んだ瞬間。その後黒い雨が降りいまだに苦しむ人がいる。75年は草木も生えないと言われた広島。その近くで人々は、食堂を創業し前向きに生きていたんだと思った。『尾道ラーメン一つください』そう言葉にするのが精一杯だった。広島に行くといつも傍に原爆のことを思う。何ができるわけでもないがせめて思っておくことは忘れないようにしようと思う。そしてここでも昭和20年と聞くと思う。
 尾道ラーメンは、言葉通りあっさりして美味しかった。後は広島に向かうのみ。尾道駅から普通列車に乗ってゆっくり広島へ向かう事にしよう。



 尾道は、迷子になる決意をした途端にとても楽しい街になる。迷子になりたい街。尾道

#旅 #一人旅 #エッセイ #日記

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