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愛と優しさの矢印はどこに向かっているのか

『ねぇその人思い浮かべてみて?
ミキは彼とずっと会えなかったとする。そして久しぶりに会ってそのことをすごく寂しかったと甘え責めするとする。その人その時ミキにあやまると思う?』
『あやまる?』
『そう「会えなくてごめんね」ってあやまると思う?』
『あやまる……と思う』
『なら別れた方がいいよ。うん。別れなよ。』

彼女は、そういった。
私は多分『会えなくてごめんね』と言って欲しい様な言葉をかけることはしないと思う。と思いながらこの答えを聞いた。

愛がわからなくなっていた。会ってアイシアって別れる。そんなことの繰り返しで何が愛なんだろうって思った。もしアイシアウって行為がなかったとしたら彼は、私と会うのだろうか。彼はそれでも私を愛してると思うのだろうか。そもそもその行為は、彼の愛情表現なのだろうか。その愛情表現は、誰に向かってるのだろう。
それは彼自身に向かってる様な気がした。私と会う時間を作り私の前で笑顔を作りそのあと私とアイシアイ家に帰る“俺“に対して矢印が向かってる様な気がした。私にその愛情表現の矢印は向かってない。そして彼女に聞いたのだ。
『彼とは別れた方がいいと思う?』
その答えがさっきの会話だ。なんだかよくわかんなかったけど不思議と納得してその場で、携帯を取り出し彼の電話番号を消そうとした。
それを見た彼女はこ
『まだ消しちゃダメだよ。着信拒否設定しないと……』
そうだ。私はまだ彼を消す事ができない。人の気持ちはそんな単純じゃない。

彼女とは2度しか会った事がない。会社の人と飲み会に行った時に、彼女は1人カウンターに座っていた。焼き鳥屋でおひとりさま。トイレに立った際ハンカチを忘れた私に『嫌じゃなかったら……』と目の前にハンカチを出してくれたのが初めての会話。その瞬間憧れの1人焼き鳥屋が少し身近になった気がした。そして別の日にその店で私は意を決して1人焼き鳥屋デビューを果たした。その時隣の席にいたのは、ハンカチを貸してくれた彼女だった。とりとめのない話を少ししたら彼女はお会計を始めた。もう少し話をしたかったのにと思うと彼女は箸袋の裏に自分の携帯番号を書いて私に渡した。090ーXXXXーXXXX  クキ
『何かあったら連絡してね』
異性だったらきっと気にかけてただろう。でも同性だからそんなに気にならなかったし連絡もすぐにはしなかった。でも何故か悩んだ時に机の上にある箸袋が目に入ってこれだと思った。気付けば電話をしていた。

☆☆☆一☆☆☆一☆☆☆

一目惚れだった。それは、異性に感じるそれとは違うどちらかというと前世で仲が良かった的な運命の出会いに近い。そんな彼女が偶然にもトイレの洗面台で少し立ち尽くした隙を私は、見逃さなかった。すぐにハンカチを差し出した。その数日後同じ店で彼女は、偶然にも隣の席に座った。偶然は2度重なると運命になる。少し話をし運命は確信に変わった。まだ話をしていたかったけどもう食べることも飲むことのできない私は仕方なくお会計をした。名残惜しくて箸袋に名前と携帯番号を書いて渡した。
それから数ヶ月運命が動き始めた。知らない番号からの着信。電話から聞こえた1音で彼女からだとわかった。今からサクッと飲みにいかないかという誘いに嬉しくなってすぐに乗った。
初めてあった時、運命だと思ったけど住む世界が違いすぎると思った。いつもスーツをきているであろうあの子とスーツを1着も持ってない私。世の中は、気が合うかどうかではなく目に見えるもっと単純なもので人を分類したがる。同じ人間なのに。

彼女とは出会った焼き鳥屋で待ち合わせた。私が向かってる途中でラインが入った。『先に入っとくね!』私は嬉しくなって走り始めた。
店に付き扉を開けると、うっすらと霧がかった様な美味しい煙の中から彼女が手を振った。
『こっちこっち』
私は吸い込まれるように彼女の前に座った。彼女の名前はミキと言った。3度目にして初めて名前を知った。でも名前なんて所詮人が区別するためにつけた記号みたいなものだ。

ミキとの話はとても楽しかった。まるでもう何十年も昔から友達のように違和感がなかった。そう思っていた頃ミキは、愛がわからないと言った。

『私ね、奥さんといる人と付き合ってるの。初めの頃は楽しくて嬉しくて本当に好きだった。でも最近愛ってなんだろうって思い始めて……
彼とは分かれた方がいいと思う?』

彼女はそういった。奥さんがいることが悩みの原因でないなと本能的に思った。

世の中には、主人公が自分の人とナレーションが自分の人がいる。主人公が自分の人は、不倫に向いてない。向いてないことをする人は、不幸だし周りも不幸になる。ミキに聞いた

『ねぇその人思い浮かべてみて?
ミキは彼とずっと会えなかったとする。そして久しぶりに会ってそのことをすごく寂しかったと甘え責めするとする。その人その時ミキにあやまると思う?』
すると彼女は、『あやまると思う』と言った。彼は優しいからきっとあやまると言った。
ミキに伝えたかった。その優しさは、口に出しちゃいけない優しさなんだ。優しいは、溢れてはいけないんだよって。優しさは、湯水の様にあふれ出はしない。溢れ出す時は、入れ物を本人が小さくした時なんだ。だから溢れ出すというより溢れださせたという事になるのだ。みて欲しい優しさの矢印は、きっと自分に向いてる。
『なら別れた方がいいよ。うん。別れなよ。』
私はミキにそう言った。その時の彼女は、とても嬉しそうにみえた。

優しさは、気づくもので見せるものではないんだ。あなたを思う私の気持ちもできるだけバレない様にしよう。それでもきっとあなたは気づいてしまうのだろう…あなたは自分の人生をナレーション側で生きる人だから。

そうして私達の運命は動き始めた。喧嘩をし傷つけあい抱きしめて泣いた日々はとても濃くすぎていった。私達の運命は優しさから始まって色んな感情と向き合っていった。

#小説 #短編 #優しさ #愛 #不倫



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