【小説】私立図書館との出会い⑤
40歳独身の私。不思議な私立図書館で自分の将来について少しづつ考え始めた。《一人がだんだん近くなる》その不安と闘いながら自分の好きなことを探す日々。そんな中この図書館であるメッセージと出会う。そこには『週に1日だけお店お貸しします』と書かれていた。
迷った時は1つ行動して材料を1つ増やすと解決する
『週に一度だけお店お貸しします。』
最後のページには、そのメッセージが書かれていた。私は、その文字を見て時が止まってしまった。なんだか突拍子もないものに出会ってしまった。私へのメッセージのような気がした。
翌日から、そのメッセージが頭から離れずにいた。「週に1度?」
定休日?何を売ってるお店かしら?お店番をしてくれる人を探してるのかしら?
そのメッセージについて考えるのと同時並行して私の、誰かのために料理を作りたい。誰かに食べてもらえる料理を作りたい。という気持ちは、不思議と大きくなっていっていた。
そしてとうとう自分の気持ちとあのメッセージが交差し始める。料理の本に書くぐらいだからもしかしたらお料理屋さんなのかもしれない。それなら合点がいく。最近流行りの飲食店をシェアレストラン?等と思う様になっていた。私の欲っする展開になるように自分で考えを導き過ぎよね。そう分かっていながらもその考えを払拭することができずに日がなそのことを考える様になっていた。もし週1度お店を私が開くとしたら何を作ろう。私の妄想は、どんどん具体的になっていく。間借りするお店の名前は、季節感のあって古風な名前がいいかもしれない。
気づけば私はその事ばかりを考えていた。このままじゃダメだわ。あのメッセージとは、そろそろ決別しなければ…そしてある日私は、そのメッセージに返事を書くことにした。この妄想を現実にして決別しないと!そして意を決して私立図書館を訪れた。
あの本を手に取る。最後のページを開く。そこには、確かにあのメッセージがあった。「週に1度だけお店貸します。」現実だったんだとなんだか安心した様なちょっと残念なようなそんな気持ちになった。最近この文字は、実は夢か何かじゃなかったのかと思っていたところだった。しかし何を書いたらいいのかわからない
店名は「間借食堂」でもいいですか?
私は、悩んでそう書いた。『やりたいです。』と言う現実的な生々しい言葉でない。相手は、ただの本の感想なのに私だけが本気で取ってたら洒落のわからない大人みたいではないか。いや現実問題できるわけはないのだ。かといって『面白そうですね』と言う他人事には、したくなかった。本の感想だけにもしたくなかったのだ。いろいろ考えて思いたった。ちょっと洒落がわかってる大人っぽくそしてもし現実になってしまっても自分から躊躇してしまうようなそんな返事にしたかった。もうあんな失恋決定の片思いの様な妄想に囚われてしまう毎日はごめんだ。それで思いついた。せめて店名を変な名前にしよう。私が書く返信にお返しがあるとしても私自身がやりたくなくなるような店名をつけよう。そして思いついた間借食堂。決別するには、そのくらいがいい気がした。
決別方法は、成功した。その日から私は、現実に戻り冷静になった。自分に週に1度だけお店をするなんて出来っこない。まるで某テーマパークの夢の国から1歩出たら現実が突然やってきたかのように…暖房の部屋から雪降る外へ突然出たかのように私の気持ちはしっかり現実へと向かっていった。何か変化するには、行動して材料を1つ増やせばいい。味噌鍋にコチジャンをいれるだけでキムチ鍋という国境さえ超える全く別の味に変化する。行動して1つ材料を増やせばいいのだ。今回の材料は、返信。
解決した悩みは水曜の夜にやって来る
仕事帰り空を見ると満月だった。満月を見るとマダムを思い出す。図書館に行こう。そう思って久しぶりに砂利道を歩く。そういえばあの本に出会った日も月が綺麗でマダムの顔を思い出したんだった。と思う。いつもの蔦のはったビルの真ん中の階段をあがる。重厚な扉を開ける
『こんばんわ』
暖かい空気が私の中に入ってくる。いつもと一緒だ。いつもと変わらず私を迎えてくれることが嬉しくて安心する。そして私は、いつも通り本を選ぶ。椅子を選び心を落ち着ける。本を開く。そして本の世界へと足を踏み入れる。
ふとグレゴリオ聖歌が流れ始めていることに気づく。それと同時にちょうどよく本を読み終わる。ゆったりとした時間。気づけばそれを私は、贅沢だと思える様になっていた。贅沢をお金の量で計ってた私は気づけば時間の使い方で測るようになっていた。昔とは、少しづつ変わりつつある自分に気づいて、これが歳を重ねるということなのかもしれないと思いながら本を元の一へ戻す。そしてふっとあの本が目に入った。
『あ…忘れてた。』
私が、妄想と訣別した本。ほんの数日前のことなのになんだかずいぶん昔の話のような気がしてくる。そしてあの妄想の日々を思い出し少し笑ってしまった。もう笑えるような過去になったのだと思うと懐かしくもあった。何も考えず本を手に取る。最後のページを開く。
週に1度、水曜日の夜にお貸しします。
えっ??
私はびっくりしてもう一度そのメッセージを見た。人は、驚くと本当かどうか確かめるために2度見をするんだなと思った。
「週に1度、水曜日…」
返信が来てる…。時間があっという間に戻っていく。現実に戻ったあの日の夜のあの時間に時間が戻って思考停止した。
『もう一度お座りになったら?』
マダムの声が聞こえた。時間がまた少しづつ動き始める。できるだけ平然を装ってさっきまで座っていた椅子の位置に戻る。ゆっくり目を瞑りそして深呼吸をする。乱れに乱れた時間の流れをゆっくりとした時間の流れに戻す。ルーティーンって大切だな。よくわからない中時間が過ぎていく。これを動揺というんだろうな。と思う。
そして私は整理する。私は今、間借食堂というお店を週に一度水曜日の夜だけやらないかと聞かれている。これは、言葉遊びなのかそれとも本気なのか。今の私はこの事実に冷静に向き合える状態ではないことだけはわかった。今日はとりあえず帰ろう。そうだ。家に帰ろう。
月夜の中、家に向かう。今日は、月が綺麗だったんだ。私はなんだかワクワクしている自分に気づいた。