ロボットはサステイナビリティ(持続可能性)にどう貢献するのか ~水資源編~
COVID-19により世界的なパンデミックが引き起こされ、誰も経験したことのないような経済停滞の危機に晒されている今、我々はもとより企業はこれまで以上に地球環境と向き合い、培ってきたノウハウやテクノロジーによって持続可能な社会システムを構築する必要があるのではないか。
分断されたサプライチェーン、移動制限による商圏変動、在宅時間の長時間化とワークスタイルの変化、商業施設閉鎖とEC需要拡大による物流現場の負担増、脱都市化トレンドなど、これらによるゲームチェンジが確実な中、企業は戦略やビジネスモデルを再考する必要性が出てきている。
COVID-19によって変化が起きたのは市場環境だけではない。自宅待機と操業停止によって中国の大気汚染がおさまり、ベネツィアでは水路の水が澄み、イルカが発見された。インド北部の町からは数十年ぶりに200キロ以上離れたヒマラヤ山脈が見晴らせるようになったという。
経済活動と地球環境保護のどちらかを取るのではなく、その両方において"Sustainability (持続可能性)"ある仕組みを構築することが今の時代に生きる人類としての責務ではないだろうか。
(企業経営にはゴーイングコンサーン(事業の継続性)と呼ばれる大前提の概念があるのだから)
ロボット活用事例から読み解くSustainabilityへの貢献
前述しておくが、「ロボットのSustainability」と言っても、『ロボットの耐用年数をどう伸ばすか』についての考察ではなく、『ロボットをツールとしてSustainability(持続可能性)にどう貢献できるのか』という視点から記述している。また、ロボット工学研究者やロボット業界に携わる人々が日々議論しているロボットの定義について、ここでは著者の独断と偏見で掲載している。
海洋プラスチックごみ 問題について
多くの海洋生物が海辺で捨てられたゴミを餌と間違えて口にしてしまっている。破片となったプラスチックを吐き出せずに胃を傷つけてしまう魚たちがいる。漁業網に絡まって身動きが取れないカメがいる。
我々が日々使っている日用品のゴミがどう海洋生物に影響を与えているかを知る機会はなかなかない。特に海洋プラスチックごみについてのデータを以下に集めた。
海洋プラスチック全体概要
世界のプラスチックの生産量は1964年~2014年の50年間で20倍以上に急増(1,500万→3億1,100万t)
今後20年間でさらに倍増する見込み。
• 毎年少なくとも800万t分のプラスチックが海に流出。
• 海のプラスチックの量は、2050年までには魚の量を上回る計算(重量ベース)
• プラスチック容器のリサイクル率は14%(紙:58%、鉄鋼の70 – 90%)(2016年1月 スイスで開催されたダボス会議2016より)
東・東南アジアに集中する海洋プラスチックごみ
日本は陸上から海洋に流出したプラスチックごみ発生量が世界ランク30位と先進国の中では比較的低めであるものの、日本周辺海域のマイクロプラスチック(5㎜以下の微細なプラスチックごみ)においては、北太平洋の16倍、世界の海の27倍とホットスポットとなっている。
海洋プラスチックごみを根絶していくための取り組み
2019年6月 G20大阪サミットにて、日本政府は海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を表明している。それに伴い環境省では2020年度の海洋プラスチックごみ対策予算(海洋ごみを回収・処理する自治体への補助金事業)を2019年度の10倍の40億円に引き上げ、市町村が負担する回収費用の70~90%を補助している。その他関連事業では、約1兆円の予算を海洋ごみ対策に使っていることもわかる。
平成30年度予算(2018年)海洋ごみ対策関連予算
漂流・漂着ゴミによる影響
ゴミの海洋投棄がなんとなく倫理的に問題があることは多くの人が認識していると思うが、海洋ゴミによって引き起こされる具体的な影響をここで紹介する。
【景観・レジャーへの影響】
・美しい景観を損なうことにより、観光地としてのイメージがダウンするなど観光への影響が懸念される
・海水浴を楽しむのに邪魔になる。
【漁業・海運への影響】
・漂流ゴミや海底に堆積したゴミが魚網を破損、あるいは魚網に絡んだり、漁獲物に混入する・漂流ゴミが船の安全な航行を妨げる
【安全な暮らしへの影響】
・医療系廃棄物やガラス破片などによる事故(怪我や感染症など)の危険が増加する
【海洋生物への影響】
・魚網やロープなどが海洋生物の体に絡まったり、海鳥などがプラスチック等の漂流ゴミをエサと間違って飲み込む(最終的にはエサが食べられなくなり死んでしまうことも)
【経済への影響】
・ゴミ回収・処理のための作業と経費の負担が増大する(特に、島しょ地域では、地域内に処理施設がなく、島外への搬出費用の負担が莫大になるおそれ)
(環境省資料、JEAN資料等を基に衆議院調査局環境調査室作成より)
海洋ゴミ回収とその後の流れ
環境省平成25年度の調査では、海洋ごみの回収主体は52.0%が漁業組合、12.7%がNPO等民間会社、5.9%海上保安庁となっており、
保管場所としては前の質問と関連し41.0%が漁業組合の敷地となっている。
運搬に関しては、47.6%が市町村が担当し、41.9%が持込、
処理費用負担は61.0%が市町村負担、15.2%は料金徴収、6.7%は補助金となっている。
対策事業における補助金では、39.1%が国・県の補助事業、34.8%が市町村の事業、6.5%清港会、4.3%漁業組合への補助となっており、多くが市民または国民の税金によって処理されていることがわかる。
一例として、水島コンビナートの湾岸清掃を業務としている水島清港会によると平成23年度の漂流ごみ回収にかかった総事業費は、約2040万円であり、水島地区企業188社からの会費、岡山県からの委託金、倉敷からの補助金を活用したという。
(『海中ごみ等の処理に関する指針』環境省 平成25年3月より)
単に海洋ゴミを回収するロボットを使うと言っても、海洋ゴミの回収、分別、保管、運搬、処分までの各段階に応じて、国、都道府県、市町村、民間団体及び漁業関係者がステークホルダーとして存在し、それぞれの連携と協力が不可欠であることを考慮する必要がある。設置した後の定期的なゴミ引き揚げと保管、運搬、処分までの全体サイクルを考えることが大事となる。
海洋プラスチックごみ回収に活躍するロボット
海洋ごみ回収ロボット [Seabin シービン]
オーストラリアのサーファーたちが開発した海のゴミ箱となるロボット。下部のモーターで水ごと吸い込み、フィルターでゴミだけを集める濾過機のような仕組みである。水面ギリギリに取り込み口があるため浮遊しているゴミだけを吸い取り、魚などの海洋生物まで取り込む心配はない。1個で1日1.5キロ、年間約0.5トンの海洋ゴミを回収でき、ランニングコストは約100円/日以下と経済的である。(0.5トンとは想像つかないが、ペットボトル16,500本、レジ袋90,000枚に相当する。)
もちろんSeabin自体も再生可能プラスチックを使用しており、2017年11月に先行発売し、2018年5月段階で計88ヵ国7,000個以上の注文があったという。
価格は1個 約80万円(日本価格)、管理人またはゴミ回収業者が1ヶ月数時間のゴミ回収を行うよりも、ゴミの回収量と人件費コストを考慮すれば十分回収できる価格設定であると言える。
2019/9/23 2:00 『海のごみ 河川で発生源探る』日本経済新聞より引用
[JELLYFISHBOT ジェリーフィッシュボット]
2016年にフランスのセーリングとスキューバダイビング愛好家によって設立されたIADYS社が開発した海洋廃棄物収集のためのロボット。ラジコンのように手動のコントローラーで制御するため短時間で特定のゴミを確実に収集することができる。ゴミを受け取るネットに関しては、寿命を迎えた漁網を活用することができるという。
技術仕様
・無線範囲 400m
・洗浄面積:1000m²/h(1ノット時)
・最高速度:2ノット
・推進力:250Wの電気モーター3基(横方向1基を含む
・自律性:4~8時間・スマートフォンアプリ(bluetooth)でのバッテリー残量表示
・回収容量30L
今は、月4~5台の生産が可能で、これまで15台の販売実績を持つという。2020年にはさらに30台の販売目標とし、2020年末には自立型の新機種の発売を予定している。それらは、オペレーターを介さずに自力で廃棄物検知をして回収できるとのこと。特に観光地での利活用に向けて動いているという。
現在、日本では清掃船を使った海洋ゴミ収集が行われている。下の画像は東京都が実施している清掃船の風景である。ジョリーフィッシュと同様に、船舶の中央部にゴミを溜める仕組みである。
広範囲かつ大量のごみ収集では、清掃船を使い、沿岸部の局地的なゴミ回収ではジョリーフィッシュを使うなどといった役割分担がいいのかもしれない。
(東京都の清掃船 YouTubeより)
[The Ocean Cleanup Array オーシャン・クリーンアップ・アレイ]
オランダのBoyan Slat氏が17歳の時に思いついたアイデアを元に、NPO法人The Ocean Cleanup が企画・開発した巨大チューブに網をぶら下げてゴミを回収するU字型の装置。長いチューブを海に浮かべ、その両橋をひっぱりゴミをかき集めていく。
これまで約44億円の資金を集めており、サンフランシスコ・ベイエリアにて実験を行っていたが、海洋ゴミ研究者からは、装置が海洋生物に悪影響を及ぼす可能性と、激しい波に装置が耐えられず新たにゴミを増やしてしまうことを懸念されていた。(使用した装置の製造コストは約23億円)
現在は、得られたデータを元に改善、改修を行なっており将来的にはカリフォルニア-ハワイ間の約100キロに及ぶ大型装置を設置する目標としている。
(The Ocean Cleanより)
※これらのゴミを回収するロボットを使う前に、人間がゴミを河川や海に捨てないことが最もエコで根本解決となることを忘れてはいけない。
海洋調査の無人探査ロボット
海洋調査無人探査機の世界市場は2022年に5,500億円と拡大すると予想されている。これまでは資源探査と科学調査がメインだったが、インフラや水産業での活用にシフトしていくと推測され、潜水士の人数も減少していることも市場規模増加の一因となっている。
海底ケーブルについて
日本-アメリカを結ぶ光ファイバーの海底ケーブルの長さは1万キロ、最も深いところで8,000mの海底に敷かれている。最深部では水圧1トン近いこともある。寿命は20~30年程度、太平洋横断級の海底ケーブル保守には年間10億円以上の費用が必要
ROV (Remotely Operated Vehicle) 遠隔操縦式ロボット
(KDDI 『「“海上”が勤務地です!」 光海底ケーブル敷設で世界の通信網を支える』より)
主に地震や漁具によって海底ケーブルが切断されたり傷つけられるという。深さ数百メートルにもなる海底に人が潜って修理を行うことは不可能であり、現在では、水深2,500mまで潜れるROVと呼ばれる海底探査ロボットを使ってケーブルを発見したり、切断、埋設している。
カメラ、ライト、ソナーセンサー、金属探知機、切断器具、海面に向けたウォータージェットを搭載している。
主な保有会社
NTTワールドエンジニアリングマリン株式会社
国際ケーブル・シップ株式会社(KDDI100%子会社)
AUV (Autonomous Underwater Vehicle) 自律航行型水中ロボット
ROV(遠隔操縦式ロボット)とは異なり、遠隔操作にケーブルは使わない。各種センサーを用いて自律で与えられた業務を行うロボットのことである。AUVにより持ち運びのしやすさから定期的な点検業務が行いやすくなったり、機動的な保守が可能になると言われている。
ROVの開発が期待されている点
①ROVに対して、建造コスト、運用コストなどの費用対効果が格段に優れる点
②ケーブルを必要とせず母船を選ばないため、機動性、持ち運び性に優れる点
③海底ケーブルを自動トラッキングできる点
④運用・保守が簡単な点
ウミヘビ型自律航行ロボット Eelume
ノルウェー科学技術大学から2015年にスピンオフし設立されたEelumeによって開発されたウミヘビ型ロボット。先端などにアタッチメントをつけることによって、採取、バルブ締め、清掃、測定など様々な業務が可能である。
ガスや油田の海底設備の点検などに使われることを想定している。
(Eelumeより)
水中ドローン DiveUnit300
2018年6月に筑波大発ベンチャーのFulldepth社によってサービス開始された水中ドローン。同時期に神奈川県相模湾沖で水中ドローンでは世界初の深水1,000mに達成した。主に水中施設の点検に利用され月額20万円(保守、保険、代替機付き)で利用できる。
主な利用用途
ダムのひび割れ測定と探査、養殖場で死亡した魚の除去、護岸工事の事前調査、崩落状況確認、定期点検、定置網の事前確認、水質調査、船舶の点検etc..
水中調査を行おうとすると1日1,000万円単位のコストがかかり、深海調査へのハードルが高い。潜水士では体に負担がかかり潜水時間は限られる。既存の遠隔操縦式ロボット(ROV)では、研究機関向けに受託開発されているため、どれも1点もので大型かつ高コストだという。
(Full depthより)
ダイブユニット300 産業用水中ドローン
・バッテリー搭載 4時間稼働
・6,000ルーメンの高照度ライト搭載
・フルHD高繊細カメラ
・本体重量28kg
・最大潜行深度300m
・波の抵抗を受けにくい3.0mmの光ケーブル
・ネットを介したリアルタイムの映像配信
・水深、水温などの採取データを記録
CES2020で出展していた水中ドローンメーカー
(一般社団法人日本水中ドローン協会より)
出展していた7社のうち全てが中国メーカーだったという。
人型ロボットダイバー『OceanOne』
スタンフォード大学でコンピュータサイエンスを研究しているオーサマ・カティブ教授によって開発された水中探索ロボット。地上からの遠隔操作ができ、触覚を備えており、物を掴んだり思い通りに操作ができる。最大深度2,000mまで浸水可能。障害物回避と自動姿勢制御が備わっているため、操縦者は本来の操縦に集中できる。
フランス沖で1664年に沈没したルイ14世の船「ラ・リュヌ」から宝物を回収するミッションをクリアしたという。
終わりに
日本でも"Sustainability" を意識した経営が上場企業のCSR活動を中心に徐々に浸透してきている。
ある人は、「Sustainability な商品か、サービスか、企業か」が今後購買の基準になる日が来るかもしれない。と発言している。
以前、私がサンフランシスコ・ベイエリアに行った時、日本領事館の方から現地スタートアップ企業はSustainabilityを重視してプレゼンをしているとの情報をもらった。日本のスタートアップではなかなか見られない動きである。
ロボット企業がサステイナビリティを目指すことはもちろんの事、我々はロボットを通じてそれらの取り組みを加速させる支援ができると考える。
ロボットを活用することがサステナビリティの根本解決となるかについては議論する余地があるが、(そもそもゴミを捨てない意識改革と自然に帰る容器素材の使用などが広く実現すれば大きく効果があると思う。) 少なくとも現代社会の応急処置として経済活動と自然環境保護を両立して推進していくためのツールとしてロボットが活躍できる分野が多く存在する。
次回は、海洋資源以外でのロボットのサステナビリティ活用を紹介していく。
X-mov Japan株式会社では、ロボットを活用した課題解決サービスプロパイダーとして企業課題や行政課題の解決を専門家を交えてトータルソリューションでご提供しています。ロボットが活躍する余地のある課題をお持ちの企業様はお気軽にご相談ください。
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出典、文献
A role for robotics in sustainable development?
How Robotics is Revolutionizing Sustainability
ヒト型のロボットダイバー「OceanOne」が遠隔操作でルイ14世の沈没船から宝物をゲット
Ocean One Lands on the Moon
The Firefighting Robot
Firefighting robots
What Robots can do for Sustainability
How green robots are helping with environmental sustainability
The 10 Sustainability Benefits to Choosing Robot Finishing
Can robotic ‘sensor fish’ save salmon from hydroelectric dams?
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