国際弁護士とは 

自分はアメリカのニューヨークの弁護士資格を持っているが、そう言うと、よく 国際弁護士ですか? と聞かれることが多い。 それに対しての返事がとても困るので、そもそも自分が日本の弁護士資格はなくてニューヨークの資格だけでどうやって日本で働いてるか説明する。 

そもそも 国際弁護士 というのは私が知ってる限り資格として存在しない。アメリカは50の州(state)からなる。この州という政府は日本の都道府県より強い。元々はそもそも独立した国であった州が連盟を組んでできたのがアメリカ合衆国 というくらいの温度感だ。アメリカでは中絶、銃規制、同性愛者の権利 などがよく政治的論点になるが、よく使われる論理として、federalism というムーブがある。federalism は本来州は独立した国であるから、州がなにしようと連邦政府(アメリカ政府)はほっとけ という論理である。リベラルなDemocratが連邦政府の大統領になると、全州で銃規制とか同性愛者の権利を守ろうとする法律を通そうとしたとき保守派がよくfederalism の論理を使う。州がやることはほっとけ 保守的な州がマイノリティ迫害しても連邦政府は口出すな という論理だ。 前置きが長くなったが、その歴史的な背景から、アメリカでは弁護士資格も州ごとであり、場合によっては一つの州の資格があれば、トランファーして他の州での資格を無試験でゲットできることもあるが、基本受け直さなくてはいけない。司法試験の内容はほぼ実務で使わないので、結構もう一度やり直すのはしんどいらしい。 とはいえ州によってそこまで法律の内容が変わるわけではない(common law という大枠は一緒) まあでもやっぱり試験はめんどくさい。

で、自分はニューヨークの資格で米国系事務所の東京支部で働いている。日本の法律には精通していないので、アメリカ法(各州の法律と連邦法)についてのみしか基本的には扱わないが、クライアントは日本企業が多い。要するに、日本企業がアメリカの法律に関わることをする時のサポートが主な業務である。クライアントが日本にいるから、日本にいる。 

日々の業務でどのくらい海外のチームと仕事をするかというと、これは分野による。例えば、キャピタルマーケット(会社が株とか債券を発行するのをサポートする業務)だと、海外チームと実務に関して連携をとるのはかなり少ない。事務所内の税法の専門チームに幾つかの書類をレビューさせるくらいだろう。しかし、M&A(会社合併)では、アメリカ系の法律事務所が関わる案件である場合は売り手か買い手のどちらかが海外にいるので、しょっちゅう英語で海外の人たちと話すことになる。他に外資系事務所が取り扱う主な分野として内部調査があるが、これは訴訟系の仕事で、東京に訴訟専門のパートナー(案件を代表して受けられるシニアの代表弁護士のレベル)はあまりいないので、海外のパートナーと仕事をすることになる。従って、どの分野でも英語でアメリカ法を扱うのには変わらないが、分野によっては出てくる人とか会社がほぼ日本人で日本にいるということも稀ではない。  

扱っているのがアメリカという国一つの法律なのに国際弁護士というのもなんとかなあ という気もする。確かに関わる案件は国際的ではある。日本の企業が海外で何かする時或いは海外の会社と何かする、海外の政府とかと揉めた時に代理するので国際的といえばそれは間違いない。翻訳的な仕事もまあまあするし、バイリンガルでなければ自分の業務内容の全てをこなすのは難しいだろう。でも使うのは英語と日本語だけで、知ってる法律のシステムもアメリカだけなのに本当に国際弁護士といえるのか?もっと言うと、前述したように、そもそも自分の資格はアメリカ全体での資格ではなく、ニューヨークの資格である。国連関連の機関で日常的に4か国語くらい話して、3か国くらいの資格をもってる人たちを国際弁護士といって自分は単なる日本にいるアメリカ弁護士 という言い方の方がしっくりくる。もっと言うと、日本人弁護士には、日本の資格をとった後に、LLMという一年のプログラムをアメリカのロースクールでやって、試験勉強してニューヨークの資格をとった先生もいる。業務内容や英語力を考慮しても、私からすると彼らの方がよっぽど立派な国際弁護士なように思える。なぜなら自分と同じ言語を話すプラス自分より一つ多くの国の資格をもっているから。これはもちろんsemantics (言葉の定義づけ)に関する議論にすぎないのであまり本質的ではないのだけど(とかいうともともこもないけど、、、)、あまりにも国際弁護士国際弁護士と言われるからたまに考える。

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