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月下美人 シロクマ文芸部
今朝の月下美人は、すでに萎れているはずです。
昨夜、そろそろ開き始める頃だと思いながらも、おばあちゃんは居眠りを始めて、そのまま朝まで眠ってしまったのです。
あんなに花の開く日を心待ちにしていたのに。そう思うと、悔しくて、悲しくて、残念でなりません。
過ぎてしまった時間は戻る事は無いのです。
慌てておばあちゃんは月下美人を植えてある庭に走りました。
「花の咲くのを見守ってやれなくてごめんよ。あぁ、綺麗に咲いた姿を楽しみにしてたのに」
すると萎れた月下美人の花は、優しい声で応えました。
「おばあちゃんはずっと私を見守り育ててくださいました。今年も花を咲かせることができました。ありがとうございます。また来年お会いできるのを楽しみにしています」
おばあちゃんは、少しだけ残っていた月下美人の芳香を感じて大きく深呼吸しました。
そして、ふと思いました。
おばあちゃんには、三人の娘がいました。
今では三人とも嫁いでいます。孫も4人います。
月下美人の挿し木をして、娘たちに届けようと。
「あんたを挿し木にしてね、私の娘たちに届けようと思うんだよ」
そう月下美人に言いました。
「ありがとうございます。嬉しいです」
後は静かな時間だけが流れていきました。
あれから何年が過ぎたでしょうか。
おばあちゃんの娘や孫たちは、月下美人を育てています。
今年もきっと綺麗な花を咲かせてくれるでしょう。
月下美人が咲くと、優しかったおばちゃんを懐かしく思い出します。
おばあちゃんの穏やかな笑顔が月下美人の花の側にハッキリと見える気がするのでした。
そして、月下美人もまた、おばあちゃんを思い出しているのです。
今夜の月は大きくて、とても綺麗です。
みんなはおばあちゃんが見守ってくれているのを感じているのでした。
ほら、ご覧なさい。月下美人の花が咲くのも間近なようですよ。
了 755文字
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