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夕焼け朝焼け シロクマ文芸部

夕焼けは悲しかった。
夕焼けは朝焼けに会いたかった。たった一度だけ、夕焼けは朝焼けに会った事がある。
そんな馬鹿な事!
そう仰るあなた、そう、あり得ないことです。
でも、宇宙と言うのはなかなかの曲者。いたずら心を見せることもあるのですよ。そう、あれは……。


あの日、宇宙は私の周りに小さな隙間を作った。その隙間の向こう側に朝焼けが広がっていた。美しい朝焼け。希望に満ちた色。

朝焼けがあることは知っていたが、私たちは会うことは無いはずだったのです。
まさかと思いながらも、私はその隙間から彼女に声を掛けました。

「あなたは本当に朝焼けさんなのですか?私は夕焼けです。信じてはいただけないと思いますが」
「まあ、なんという事でしょう。あなたにお会い出来るなんて!今、あなた様の憩いの色に魅了されております」
私たちはお互い、ときめきを感じたのだ。初めての気持ちだった。

私たちは隙間をこじ開けたかったが、ほんの少しだけしか隙間は広がらなかった。私たちは手を取り合うのが精一杯だった。
そして隙間は、少しづつ狭くなりやがて閉じたのだった。


彼女、朝焼けの色が少しだけ私の手に残されていた。やがてそれは成長を始め、小さな朝焼けとも夕焼けともいえる色に育っていった。
これは神様が私に授けてくださった宝もののような我が子。
私とその子のことを、人間たちは
『夕焼け小焼け』と呼んでくれて童謡にもなっている。

朝焼けよ。私たちは元気にしているよ。安心しておくれ。


了 609文字


小牧幸助さんの企画に参加させて頂いています。
よろしくお願いいたします。



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