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役割 シロクマ文芸部

北風と一緒に口笛を吹きながら旅に出た。
私は北風の見習い。生まれたばかりだから、まだ口笛も上手く吹けない。師匠の北風のようになれるのはまだまだ先だ。

音程は気にせず、今は大きな音が出るようにと師匠は言うけれど、私はメロディーを大事にしたい。もちろん、師匠には言えないけれど。
師匠が奏でる口笛は恐ろしい。まるで心の中まで通り抜けていく冷たい氷だと人間が震えて話すそうだ。とてもじゃないけれど私にはそんな口笛は吹けそうにない。

ある日、師匠と私は春風に会った。バトンタッチが行われるのだと告げられた。

生まれて初めて出会う春風は優しい音色を私に送ってくれた。始めましての挨拶のようだった。
そんな口笛を私も吹いてみたくて胸がときめく。
北風の師匠は心なしか寂しそうな音を奏でる。こんな音を師匠から聞くとは思わなかったので、そっと師匠を盗み見た。

その時、春風の後ろにいた春風の弟子が私の前に姿を見せた。
「君が北風の弟子かい。軟弱そうだな。俺は春風の弟子だが、俺には物足りない、なあ、俺と役目を交換しないか?」
私は一瞬心が揺れた。そうできれば願いたいとも思ったがやはり言えない。

「私はこのまま頑張りたい。私らしい北風を吹けるように」
「元々ある個性を生かすことも大切さ」
春風の弟子も引かない。

春風が口を挟む。
「実は私と北風は昔役目を一度交換したことがあるのよ」
「えっ、そうなんですか」
私と春風の弟子は思わず声を合わせた。

とても信じられない。春風の優しい口笛が……、北風の厳しい口笛が……

「修行とは、こういう事でもあるのだ」
北風の師匠は神妙にそう呟いた。

意味が分かるよな分からないような。私と春風の弟子はお互いの顔を見合わせた。

「一度、試してみたら納得するわよ。神様に選ばれた私達の事、あなたたちの役割の事」

私と春風の弟子は当分入れ替わることになった。嬉しいけれども遅かれ早かれ私たちは元に戻ると思われた。
暫く楽しんでみよう。私はさり気なく春風の弟子に『頑張ろうね』のアイコンタクトを取った。すると彼は大胆なウインクを返してきた。


これからの北風と春風、あなた達はどう感じるのかしら。皆さん応援してね。



了 888文字


今週のお題 『北風と』から始まるお話です。
小松幸助部長、よろしくお願いいたします。


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