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秋と本と風 シロクマ文芸部

秋と本屋に入ってみた。初めての本屋は、初めて足を向けた道の袋小路にあった。秋と僕は躊躇することなく、誘われるように古びた店舗の引き戸を開けた。古本屋特有の匂いが広がっている。
僕と秋はそれぞれ右と左に別れ、自分の興味を引く本との出会いを求めた。
暫くお互いのことは忘れ、その時間を楽しむ。

気が付くと秋が僕の側に来ていた。一冊の本を手にしている。
「それ、何の本?買うの?」
彼女はその本をパラパラとめくる。すべて白紙だったが、本の装丁は立派なものだ。

「日記帳?自分で物語を綴るの?」
彼女は表紙を僕に見せた。
タイトルは『風』となっていた。

彼女が『note』に小説を書いて投稿しているのは知っていた。僕も時々読ませてもらっている。ちょっと不思議な世界が書いてあることが多い。

「この本に書いたら自分だけの本になるね」
「ええ、タイトルは『風』で決まりだけど」
そう言って彼女は微笑んだ。

僕は今回は本の購入はしなかった。

帰り道、秋は大切そうに本の包みを胸に抱えている。
「秋が何を書くのか楽しみだよ。書いたら読ませてね」
「何を書くか風に聴いてみないとわからないわよ」
「風に?」
「そう、この本は風に聴いた話を書く本なのよ。


それから彼女に会えなくなった。
時々noteを覗いてみる。僕と本屋に行った時の話が書いてあったが、その後の記事は無い。

彼女は今も風に話を聴いて回っているのだろうか。
あの古本屋は閉まったままだ。


了 594文字


今週も参加させて頂きました。よろしくお願いいたします。


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