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経年劣化の霊

私がこの世の者でなくなり、どのくらいの年月が流れたのか。私の体は無色透明だったはずだが、少しずつそうではなくなってきた。
街を歩いていても、私にギョッとした視線を向ける者、振り返る者が少しではあるが出てきた。

私はなぜ、未だに人間界を彷徨うのか。あの世を楽しめば良いと思うのだが、いつのまにか人間界を目的も無く彷徨っている。

ある日、私は出会った。
二歳くらいの男の子と母親に。
二人は浴衣を着て、男の子は手に虫カゴを抱え、母親はウチワで蚊を追っている。

この風景、どこかで見た。いや私自身がこの男の子だ。ああ、母だ。

私は、あの頃の母を探していたのだろうか。
出ないはずの涙が溢れる。

「ヨウちゃん」
そう声をかけられた。振り向くと一人の老女が。
ああ、母だ、母!
私は母よりも随分先にコチラに来てしまった。
その母が今、コチラに来たのだ。
思わず、新鮮な霊となった母を抱きしめた。
私は経年劣化していたはずだが、いつのまにか無色透明に戻っていた。

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爪毛さん、いつもありがとうございます。
「爪毛の挑戦状』久しぶりの挑戦です。
今回チョイスしたキーワードは、『経年劣化』と『霊』です。時々キーワードを眺めてはいるのですが、なかなか決まりません。難しいです。


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#ショートショート