母のワンピース 【ひと色展】
母の夢を見た。
顔がアップになって、ただ私を見つめていた。
「おかあさん」
小さな声で呼んでみる。返事は無い。
母は、私にとって思い入れのある服を着ていた。
母の着ていた服の色は、いつも同じような優しい色だった。
その頃は茶色だとしか思わなかったが、大人になってその色がローアンバーと言う色だと知った。
そして、今日の夢の中で母が着ていたのが、私が社会人になって初めて母にプレゼントしたワンピース。夢の中の母によく似合っていた。
母がもったいないと言ってなかなか袖を通してくれなかった服。
その服も母が好きな色のローアンバーで、襟の白い色が少しだけよそ行き感を漂わせていた。
母は、なかなか着てくれず、気に入らなかったのかと私は思っていた。
ある日、外出先から帰宅した時、母がタンスの引き出しから取り出したその服を愛おしそうに撫でてくれていた。
「おかあさん、着てみてよ」
私はそう言ったが、母は首を振る。
「この服、とても好きすぎて着れないわ。ここにこうしてあるだけで嬉しいの。あなたの方が似合うかもね」
その言葉に、私は母のいつもの貧乏性を思っただけで、そのうちに着てくれると信じていた。
結局、母がそのローアンバーを着ることは無かった。
私の結婚を見届けたらと決めていたようにスッと逝ってしまった。
母が私に向けた最後の言葉は
「あれはあなたが着てね。見守ってくれるから」
だった。
葬儀の終わった後、ローアンバーに私は袖を通した。
「ほらね、良く似合うわ」
母の声が聞こえた気がした。
私はローアンバーを着た私をしっかりと抱きしめながらも、母に抱かれているのを同時に感じていた。
【了】
イシノアサミさんの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。