ススキ ショートストーリー(694文字)
買い物帰りにいつもの道を歩く。小さな水路のような川べりにススキがたくさん生えていました。
「ちょっと、そこの美しいお嬢さん」
そう声がしたのですが私はお嬢さんでも無く、美しくもありません。でも一応辺りを見回しました。けれど先ほどすれ違った初老の男性の後ろ姿が見えるばかりです。
どうも私に声をかけてきたのはススキのようです。
この辺りのススキも随分増えてきました。ススキたちの僅かな隙間にやせ細ったセイタカアワダチソウが隠れるように一本覗いているのも見えました。
随分前、ススキと帰化植物のセイタカアワダチソウとの領土問題が浮上し、一時期、日本古来のススキの存続が危ぶまれたことがありましたが、ススキがジワリジワリと盛り返し、今、この辺りでセイタカアワダチソウを見かけることは殆どありません。日本人の私としてはホッとしたのです。
さて、ススキが私に何か言いたいことがあるようです。どんな話が聞けるのでしょう。少しワクワクします。
「私はお嬢さんでも無く美しくも無いですが、私にご用ですか」
私はそう尋ねました。
「いえいえ、女性はどなたでもそれぞれ違った美しさをお持ちです。あなたも例外ではありませんよ」
次々に歯の浮くようなお世辞が並び始めた。聞いていてムズムズする。彼は新種のドンファンススキか。
「それはどうも。ところでご用は?」
「私の地下茎を道路の向こう側に移植していただけませんか」
そう来たかと私は思った。ススキも侵略者の一面があるのだ。忘れてはいけない。しかし人間の方が凄まじいが。
私は聞こえないふりをしてその場を立ち去った。
私の判断は、最近の世界情勢に影響されているのだとススキは思っただろうか。
了 694文字