真夜中の公衆トイレ #たいらとショートショート
トイレに行きたい。
真夜中の公衆トイレの前で立ち止まる。
薫は利用を躊躇した。我慢の限界が近いのはわかっている。店で済ませたかったが、変なおじさんが入ったきり出てこなかったのだ。
家まで歩けば30分、でも今日は酔っているからどうだろう。
何だか夜の公衆トイレは気味が悪い。が、考えている時間が惜しい。
薫は「えいっ」とばかりに、薄暗い公衆女子トイレに入って行った。
四つばかりある個室の三つの扉には『使用禁止』の紙が貼ってある。
残る一つの扉をノックする。返事は無い。
ホッとして、扉を開けた。思わずのけぞる。
これ以上汚いトイレは無いだろう。ドアを静かに閉める。
では、ならば…!
薫は隣りの男子トイレに向かう。そろそろ、かなりヤバい。
男子トイレは五つの小便器と二つの個室があった。
個室の奥の扉をノックする。返事は無い。扉を開けると、あの女子トイレに勝るとも劣らない状況。
ため息をつく余裕も無い。
最後に残った希望の扉。呼吸をするのも忘れて、激しくノックする。
「入ってまーす」間伸びした声。
「早くしてください、お願いします」薫は懇願した。
すると扉は開き、中から見覚えのある変なおじさんが出てきた。
「あ、店にいたオカマ野郎か」
変なおじさんも薫を覚えていたようだ。
薫は変なおじさんを押し退ける。
が、そこも酷い光景。
「よく、こんなところで、できたな、おっさん」
薫は毒づく。
「お前、小便器を使えない身体か?」
おじさんはニヤつく。
すっかり忘れていた。私の身体はまだ男。
ギリギリ間にあった。
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