夢の中の猫 ショートストーリー
エミちゃんは猫が大好き。
それなのに、猫アレルギーなのです。
こんな悲しいことはないですよね。
猫を抱っこしたい。猫を撫でたい。
そして猫を家で飼えればどんなに素敵でしょう。
猫アレルギーを治す薬は無いのでしょうか。
お父さんもお母さんも猫アレルギーではありません。
病院で治せるなら、何度だって大嫌いな病院に行くのにと思うエミちゃんでした。
そんなエミちゃんはある夜、夢を見ました。
エミちゃんの側に大きな三毛猫がいました。
多分、おばあちゃんちの ムギ だと思いました。
ムギを抱っこしたことはありません。ムギはいつもエミちゃんに近づかず少し離れたところでエミちゃんを見ている猫でした。
「ムギ」
エミちゃんは呼んでみました。
するとムギは自分からエミちゃんの胸に飛びこんで来てくれたのです。
ムギの匂い、なでた時の柔らかい感触に思わず涙が出そうになりました。温かい体温がエミちゃんに流れてくるようでした。
エミちゃんは抱かれているムギに頬ずりをしました。
ムギは一声「ニャーン」と鳴きました。
そこで目が覚めました。
まるで本当にさっきまでムギがいたような気がしてベッドの周りを探してみましたが、勿論ムギは見つかりませんでした。
そんなことがあって数日過ぎた時、お父さんが言いました。
「エミ、花田さんの家のマリーに子犬が五匹産まれたそうだよ。一緒に見に行ってみようよ」
花田さんとお父さんは子供の頃からの友達。時々二人で釣りに出かけたりしています。
「子犬、可愛いだろうな。一緒に行く」
花田さんの家に行くと、小父さんと小母さんが迎えてくれて、段ボールの中の子犬を見せてくれました。マリーはエミちゃんを見て尻尾を振ってくれました。
段ボールの箱の中に生まれて一週間ほどの子犬が五匹。二匹は黒。ほぼ茶色が二匹。あとの一匹はムギと同じような三毛犬だった。
「この子可愛い」エミちゃんは思わずお父さんにそう言いました。
「なんだか、ムギみたいだな」
そう言いながらお父さんの顔は曇りました。実はムギは一週間前に天国へ旅立ったのです。ムギは元々お父さんが拾ってきた猫でした。
「実はな、ムギは天国へ一週間前に行ってしまったんだ」
エミちゃんは驚きました。ムギは夢の中にお別れに来てくれたんだ。最初で最後、ムギは私に抱いてもらいに来てくれたのだ。私の願いを叶えるために。
エミちゃんの涙はすぐには止まりそうもありませんでした。
小母さんがハンカチを差し出してくれて言いました。
「この子はムギちゃんの生まれ変わりかもしれないわね」
そうかもしれないと、エミちゃんは思いました。
猫のムギは抱っこできなかった、だから……。
「お父さん、私この子が欲しいな」
勿論エミちゃんは犬も大好きです。
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