釜揚げ師走 毎週ショートショートnote
師走。
旨い話はないか。子らに食わせる飯も無い。
「ちょいと兄さん、遊んでいきなよ」
見ると小股の切れ上がった姐さんがシナをつくって立っていた。
「ふん、そんな銭があれば子らの飯でも手に入れるってもんよ」
「そう、なら仕方ないね。どうだい、店を手伝ってくれたら、子らのおまんま代くらいにゃなると思うがね」
「稼がせてくれるのかい、ありがてぇ」
姐さんについて行くと繁盛しているらしい饂飩屋だった。
「あっしは何をすればいいんだね」
「親父さんが両手に大やけどして饂飩を上手く茹でられないんだ、揚げるタイミングを合図するから、あんたが饂飩を茹でるんだよ」
やってみると難しいが、なんとか親父さんと呼吸を合わせ客に出せるようになりひと月。
やっと年が越せるだけの金も手にできた。
姐さんに礼を言うと彼女はこう言った。
「あの親父はまかり間違えば、釜茹での刑になるところだったのさ。今は饂飩の釜揚げで生きているけどさ。あんたも真っ当に生きていくんだね」
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かにさんの今週のお題 釜揚げ師走 です。
いつもと違う時代設定としました。ちょっとカブルかも。心配ですが。
よろしくお願いいたします。