黒い猫と白い犬 シロクマ文芸部
「冬の夜は暖炉の前で昔話でもしましょうよ」
黒い猫は白い犬に話しかけた。
二匹は長い間この家に飼われていて一緒に歳をとっていった。そして老犬と老猫になっていた。
穏やかな顔で白い犬は
「そうだね、何を話すかね。いろんな事を忘れてしまったけれど、あんたに初めて会った時の事はよく覚えているよ」
「私もだよ。あんたが怖かったけれど、初めからあんたは子猫の私を可愛がってくれたね」
黒猫も柔らかい笑顔で応えた。
「そりゃあ、あの頃はあんたはあどけなくて可愛かったからな。私が守ってやろうと思ったんだが。すぐに悪戯っ子になって私を困らせたな」
「そうだったっけ?でも私は大きなあんたが大好きでね。いつもチョッカイを出してさ、あんたに構ってもらいたかったんだよ」
「あぁ、わかってたさ」
二匹は顔を見合わせ笑う。
最近、二匹は毎晩同じ話を繰り返す。それもまた楽しい時間だった。
暖炉の炎は二匹の話を黙って聞いている。
黒い猫は、いつものように白い犬に寄り添って眠った。
穏やかな寝息。
白い犬は黒い猫の頭をそっと頬で撫でて優しく舐めてやった。
その時、カタンと暖炉の薪が音を立てた。
暖炉の炎は冬が訪れる度に二匹を見守り続けてきたのです。
冬の夜は長い。
そのことに白い犬は心地良い穏やかな幸せを感じていました。
そして黒い猫も、また暖炉の炎もそう思っているのだろうと白い犬は思うのでした。
優しい夜は静かに更けていきました。
了 587文字
シロクマ文芸部に今週も参加させて頂きました。
よろしくお願いいたします。