春ギター 毎週ショートショートnote
それは落ちていた。樫の大木の根元に。
森の仲間たちは、珍しい物見たさに集まってきた。
初めて見る形を不安げに見守っている。
好奇心の強いサルが触ってみた。そのはずみに立て掛けてあったそれは倒れた。動物たちは少し後退りを始めたが何も起こらない。
動物たちはホッとして顔を見合わせる。
サルはさらにそれに触る。音が出た。聞いたことのない音。細い線が細かく震えていた。サルは触れば音が出るものだと認識したようだ。
大胆にそれの側に行き、6本の線を一本ずつ触ってみた。線の音は全部違っていた。サルも、ほかの者達もなんだか楽しくなった。
代わる代わるそれに触って音を出して遊び始めた。楽しくてみんな笑顔だ。
小鳥達たちがやって来た。
小鳥たちは、歌は私たちに任せてとばかりに、美しい声でさえずり始めた。まるで森の音楽会。
それは思っていた。
『誰も僕の名前を知らないけれど、とても楽しんでくれている。僕は幸せだ』
春の日差しを浴びてそれはキラリと光った。
たらはかにさんの企画です。お題は『春ギター』
いつもありがとうございます。