モンブラン失言 毎週ショートショートnote
私は甘い菓子は嫌いだ。
ケーキなど、あれは食べる物では無い。鑑賞するものだ。確かに美しく魅力に満ちている。
ただ、モンブランは見るのも嫌だ。
我が夫は白い山、モンブランの登頂を目指しフランスに行ったきり帰って来ない。もう10年以上も前の事だ。
一人娘は12歳になる。父を知らぬ可哀想な子だけど、素直な優しい娘。
娘は洋菓子のモンブランが大好物。皮肉だなと思うが父親の事、私の気持ちを伝えた事はない。
娘は父のことを知っていた。口さがないスズメは何処にでもいる。
ただそのことを彼女は私に告げたことは無い。言わないほうが良い気がしたのだろう。
そんなある日、モンブランの麓の村の役場からメールが届いた。
ひとりの行方不明者が記憶を失くしていたが、この度記憶を少し取り戻した。お宅の家族である可能性が高いとあり、写真が数枚添付されていた。
夫には似ても似つかない男だが、好みのイイ男。
間髪入れず「夫です」と思わず返信してしまった私を許してね。
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たらはかにさんの企画に参加させて頂いています。
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