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風の色 シロクマ文芸部

風の色は今日も変化を続けている。
風に色を感じるようになったのは随分前のことだ。
他の人たちは誰もそんなことは言わない。

有るか無いかの微妙な色だが、私にだけ見えるとしたら私はおかしいのだろうか。
病院には行かない。大したことではないし日常困っているわけでもない。行けば嫌な思いをするような気がする。

子供の頃、風に色があったら良いなと思ったことは確かにある。神様にお願いした訳ではないし何かの罰でもなさそうだ。このまま受け入れている。

そうは言いながらも、私は楽しんでいる。柔らかい日差しの中で、淡い虹色のような風を全身に受けるとき、神様に愛されているのではないかと思うほどに。

しかし、嵐の中では、風は想像を絶する恐ろしい色で私を、私の中を通り抜ける。嵐の時は外には出られない。わざわざ出ることは無いが。

そんなある日、男性と一緒にいた友人に出会った。
来月、外国で二人だけの結婚式を挙げると言うのでお祝いに何が欲しいか尋ねた。

友人は、私の手を取りこう言った。
「あなたの能力が欲しい」と。
「何よ、それ」
私はとぼけたが、彼女は私に耳打ちをした。
「その代わり、彼氏はあなたにアゲル」
こちらの返事も聞かずに、彼女は私を二度強く抱きしめると風のように姿を消した。

成り行きで友人の彼氏と付き合い始めたが、思いのほか私たちの相性は良かった。風の色は見えなくなったが私はそれ以上の幸せを得た。私たちは結婚したのだ。


今頃、彼女はどうしているのだろうか。風の便りさえ届くことは無い。



了 625文字


小牧幸助さんの企画に参加させて頂いています。
いつもありがとうございます。



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