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子狐のマフラー シロクマ文芸部

マフラーに憧れている小さなキツネ。
隣に住んでいるキツネのおじさんの青いマフラーが気になって仕方がないのです。おじさんが歩く度にヒラヒラと舞うマフラー。
「なんて素敵なんだろう」そう呟きながら小狐はおじさんを見送るのです。

ある日、おじさんに子狐は尋ねました。
「ねえ、おじさん。そのマフラー、どこにあったの?」   

おじさんは笑顔でこう言いました。
「風にもらったんだ」
「え?」
「風は吹き抜ける時、ゴミや砂を巻き上げるが人間の落とし物まで連れてくるんだ。この先の白い大きな岩場で時々人間のものが見つかるだろ。このマフラーもそこで見つけたんだよ」

小狐は、早速岩場に行ってみました。
でも紙屑が舞っているだけです。
それから毎日、子狐は岩場に見に行きました。

その日もガッカリして帰ろうとした時、子狐は初めて人間の女の子に出会ったのです。

「こんにちは、キツネさん」
女の子は赤いマフラーをしていました。
これが風さんなのかと子狐は思いました。子狐は風さんにも人間にも会った事が無かったのです。
ドキドキして返事ができません。

「キツネさん、今日は寒いですね」
「こんにちは、寒いです」子狐はやっとのことで言えました。

「本当、キツネさん。とっても寒そうよ。ね、私のマフラーあげましょうか」
「え⁈本当に?」
子狐は驚いて女の子に歩み寄りました。
「このマフラー、小さくなったの。だから今お母さんが新しいマフラーを編んでくれているのよ」
「風さん、ボク嬉しいです」
「私が風?そうね。私は風よ」
女の子は悪戯っぽく笑いながら赤いマフラーを子狐の首に巻いてやりました。

「風さん、どうもありがとう」
子狐は嬉しさのあまりピョンピョン飛び跳ねました。
「喜んでもらって嬉しい。では私は帰るね。また会えたらいいわね」
そう言って女の子は手を振りながら帰っていきました。

赤いマフラーは良い匂いがしました。赤いマフラーはとても暖かいです。

子狐は隣のおじさんに、風さんにもらった赤いマフラーを見てもらおうと走り出しました。マフラーをしていると自分も風になった気がするのでした。



おしまい 856文字


小牧幸助部長の今週のお題は『マフラーに』から始まる小説等です。
よろしくお願いいたします。


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