見出し画像

森の秋 シロクマ文芸部


木の実と葉が森の辺り一面に広がり、まるで宝石箱の中を歩いているようです。可愛らしい木の実と紅葉した葉がおばあちゃんを迎えてくれました。

おばあちゃんとおじいちゃんはこの季節がやって来るのを楽しみにしていたのです。でも今年は一人で森にやって来たおばあちゃん。

持ってきたカゴの中にはおばあちゃんが拾った木の実と美しい葉が。もう少しと思いながら歩いて行きます。いつもは行かない森の奥に足を踏み入れた時、目を見張るほどのイガグリがたくさん落ちていました。栗はおじいちゃんの大好物でした。

おばあちゃんは一生懸命、栗のイガと格闘してたくさんの栗の実を集めることができました。こんなところに栗の木があるなんて知らなかった。早くに知っていたらおじいちゃんがどんなに喜んだでしょう。

さて帰ろうと振り向いた時、おばあちゃんは驚きました。
そこにいたのは大きなクマだったからです。

「おばあちゃん、困りましたね。ココは私の栗園なのですよ。勝手に持ち帰らないでください」

「ごめんなさいね。知らなかったの。この辺りに来たのは初めてなの。そうですね、クマさんはそろそろ冬眠ですね。たくさん食べておかないとね。
この栗はお返しします」

おばあちゃんは、そっとカゴを差し出しました。
「このカゴ、可愛いですね。私も欲しいです。おばあちゃんがつくられたのですか」

「はい、私が編みました」
「私にも作ってください。そうして頂けたら、その栗は差し上げます」

「お安いご用よ。待っていてね。たくさんのクリを頂けて嬉しいです。ありがとう」



家に帰るとおばあちゃんは最初に拾った木の実ときれいな色の葉っぱを、おじいちゃんの写真の前に飾り付けました。
「まずまずのできでしょ」
おじいちゃが微笑んでくれたように見えました。
「今日はクマさんに栗をいただいたの。栗ご飯にしますよ。楽しみにしていてね」

おばあちゃんはクリの皮を剥きながら、クマさんと約束した、カゴのデザインを考え始めました。クマさんのカゴは大きいものが良いわね。
どんなカゴにしようかな。


ふと見上げると窓の向こうに大きな丸い月。
クマさんも見ているような気がしました。
そうだ、クマさんの顔を編みこんでみよう!ちょっとワクワクします。

おばあちゃんは、おじいちゃんの写真に声をかけました。
「栗ご飯がそろそろ炊きあがりそうですよ」

月にもクマさんにも栗ご飯をご馳走してあげたいな。おばあちゃんは、そう思うのでした。

今夜の秋の森は優しさに包まれていますよ。


おしまい


小牧幸助さんの企画、今週の書き出しは『木の実と葉』です。

#シロクマ文芸部
#木の実と葉
#ショートストーリー
#小説