チャリンチャリン太郎 毎週ショートショートnote
お貰いさんを見かける事があった。戦後、大勢の国民がまだ貧しかった頃には。
ボロボロの敷物の上に、ひどく粗末な着物を着て、髪は洗った様子は無く、顔はいつもる下を向いたままの彼。
彼はチャリンチャリン太郎と呼ばれていた。
彼の前に置かれた空き缶の中には、何枚かの硬貨が入っている。
空き缶に小銭を投げ入れられた枚数と同じ数だけ、チャリンチャリンと言うのだ。
通りすがりに、小銭を投げ入れる者をじっと彼は待っている。
私は一度だけ、缶に小銭を入れた事がある。
父と外出した帰り、いつもの場所にいた太郎さんに持って行くようにと、父が何枚かの小銭を私に渡したのだ。
「投げ入れたらダメだよ」
父はそう言った。
私は太郎さんの前に行き、しゃがんで缶に小銭を入れた。
ふと、彼と目が合った。キレイな目だった。
太郎さんは、チャリンチャリンと言わなかった。その代わりに彼はありがとうと言った。
彼はなぜ、あの時チャリンチャリンと言わなかったのか。
君にもわかるよね。
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たらはかにさんの企画です。
私が子供の頃は、硬貨は1円玉、五円玉、10円玉しか無かった。
50円玉と100円玉が発行されたのは1967年。
百円札は1974年に発行は中止されました。