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青ブラ文学部 紅一点の魔物 

昔々の話です。
ほとんど名前を知られていない小さな国がありました。
その国に住む人々は幸せに暮らしていました。
王様とお妃様は国民の幸せを一番に願っておられ、国民からも慕われています。
この国の王様と王妃は花をそれはそれは大切に思っておられ、お城には花壇や温室がたくさんありました。
そして花は国のあらゆる場所で咲いています。

ある日のことです。
花好きの王様と王妃のためにと一人の旅の少女が珍しい紅色の花を献上しました。その花の甘い香りをかぐと、幸せな気持ちが一杯に広がるのです。


私は4歳の時、魔族と呼ばれる闇の者にさらわれて、私は魔の者として育てられた。
少数魔族の血は濃くなるばかりで様々な障害が表面化していた。
それを解消するために集められた人間の子供の一人と私は聞かされた。

私の名はマ。
魔族達は私を特別扱いにしなかったので、それなりの魔族の一員となった。
人間の頃の記憶はほとんど残っていない。そもそも人間て何だったのだろうか。

私は16歳になった時、魔族の長に呼ばれ、初めての仕事を言い渡された。
私は長に育てられたのだ。

長は、ある国の王妃にこの花を献上して来いと私に命じた。
それだけの事かと質問したが、長はそうだとしか言わなかった。

とにかく長から命じられた仕事をやり遂げますと胸を張った。
私は長から、不思議な香りのする紅色の花を渡されたのだ。
その花を作り出し育てたのは長自身だ。



お城にはたくさんの花があると王妃のことば。
王妃に花は好きかと聞かれ私は「はい」と答えたが、本当に好きなのかどうかはよくわからなかった。
王妃は花をもらったお礼にと、王妃のお気に入りの花を集めてある温室に案内してくれた。

薄暗い世界に住んでいるマには王妃の温室は目を開けていられないほど光に満ちていた。こんな世界があることがマには信じられなかった。
そして王妃の温かい眼差しや言葉。マの中の何かがザワザワと騒ぎ始めたのだ。

王妃はマから受け取った花を鉢に植えた。
「根付くと良いのだけれど」
そう言って王妃は笑顔を見せた。
その時、紅色の花が歌い始めた。
『マは王妃の娘 王妃の元に帰って来たよ マは王妃の娘エヴァ』と繰り返すのだった。


魔族の長は昔さらった子供たちをこうやって親の元へ返したのだ。
時代が魔族の存在を許さなくなったのを感じていた長。

そうして魔族達は長のもとで人間として生きていく道を選択した。
世界の国の中に花づくりに特化した国があるのをご存じだろう。
その国の先祖は何処とも知れぬところから現れた者たちによって建国されたそうだ。花づくりにかけては天下一の国民。


世界地図の中にかつて紅色で表された唯一のこの国。遠い昔からの約束事のように。世界で一番古い世界地図を見ればこの国だけは確かに紅色で描かれていますが、詳しくは分かっていません。この国のその頃の通称は『DEMON』であったとの言い伝えが残っています。



了 1184文字



山根あきらさん
いつもありがとうございます。
今回も企画に参加させて頂きました。よろしくお願いいたします。めい


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