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甘く哀しい薔薇の一生
「日に日に君は美しくなっていくね。さすがは僕の自慢の恋人だ」
今日も良樹が私を抱き締めて、優しく口づけをした。私にとって最高に至福な時間だ。
「爪が伸びているね。切ってあげよう。明日は大切な日だからね」
彼が私の手を取り呟いた。
大切な日とは何だろうか ? 何かプレゼントをしてくれるのかしら。
一本づつ丁寧に長く伸びた爪を、彼がカットしてくれる。そんな彼の手はとても温かい。
ああ、明日はどんな素敵な事があるのだろう ?
楽しみで心が踊り、顔が綻んでいくのを感じる。幸せを身体中に感じながら、ついに翌日を迎えた。
「紹介しよう。僕の大切なフィアンセだよ」
良樹の隣には、色白で大きな瞳の女性が並んでいる。
フィアンセ !?……。
ついさっきまで、喜びに包まれていた心が打ち砕かれていく。
「はい、これは僕からのプレゼントだ。君にぴったりだと思ってね」
何故か、彼は彼女に私を差し出した。
えっ !? プレゼントってどういうこと ? どうして私が ?……
「まあっ ! 綺麗ね。素敵だわ」
彼女が私の顔に手をあて、頬擦りをする。あまりの馴れ馴れしさに苛立ちを感じた。
「さあ、今日から君は彼女のものだ。可愛がって貰うんだよ」
良樹の言葉は、心臓に刃物を突き刺したような衝撃を覚える。
どうして !? どうしてなの !?私は良樹と離れたくないのに……。こんな女なんて大嫌い !
「有り難う、良樹」
動揺している私の気持ちをよそに、女は良樹に抱きついた。
「喜んでくれて良かったよ。これには僕の愛がたっぷりと込められているからね」
良樹が、女の薔薇色の頬に触れ、唇を塞いだ。いつも私にするような爽やかなキスではなく、明らかに燃えるような熱く長い接吻……。
やめて ! 良樹は私のものよ。そんな女とそんな事しないで……。いつものように私だけを見て……。
どす黒い塊が心の中を埋め尽くしていく。真っ黒な闇が爆発するように、私の身体に異変が起きた。
なんと、昨夜、彼に切ってもらった筈の爪が伸び始めたのだ。鋭く伸びた爪は、いつの間にか彼女のうなじを突き刺していた。
そうだ。あんたなんか、いなくなってしまえばいい。燃えるような憎しみは止まることなく女を攻撃しつづける。
「きゃあっ ! 痛いっ !」
女が悲鳴をあげ疼くまる。
「おいっ ! 何だ !? いったい何が起こったんだ !?」
良樹が私を突飛ばし、女に駆け寄った。
「大丈夫か ? これは酷い。待ってろ。今、医者を呼ぶからな」
彼は女をお姫様抱っこすると、ベッドへと運んだ。顔面蒼白になり、苦痛にゆがんでいる彼女の応急手当てを済ませると良樹は私の方に目を向けた。それは、今までに見たことのない恐怖と怒りを込められた彼の瞳だった。
「こんなものを、僕は……」
そうつぶやくと良樹の手によって、私の身体は激しく引き裂かれていった。だんだんと靄がかかるように力が抜けていく。
鏡に映る自分の姿の変貌に呆然とする。燃えるような深紅だった私の美貌は、今、灰色の無惨な破片と化していた。
他の兄弟姉妹の中で、私が一番美しいと褒め称え、優しく撫でてキスしてくれた良樹。
そんな、愛しい彼にはもう会えないのだろうか ?
彼は、みすぼらしくなった私を睨み付けると、言葉を発した。
「僕としたことが……。ひときわ輝いている綺麗な薔薇だったから、特別に育ててきたのに、まさか、こんな呪われた薔薇だったとは……。彼女にとんでもないプレゼントをしてしまった」
彼は新聞紙に私を乱雑に包んだ。カチッとライターの着火する音がする。炎に包まれながら流す私の涙に、彼が気づくことはなかった。
私は良樹を苦しめたかったわけじゃない。
貴方の笑顔が誰よりも好きだった。
愛する思いが強くなり、ジェラシーと
言う恐ろしい魔力を生み出してしまったのだ。
決して叶わぬ恋に身を焦がし、悲しみの魂が溶けていった。
完
あとがき
誠に勝手ながらタイトルを変えさせていただきました。新タイトルの方がストーリーの雰囲気に相応しいと考えたからです。前タイトル『薔薇色のジェラシー』から、読んで頂いた方には心よりお詫び致します