呪いのプレゼント
私は、赤紫色の包装紙に結ばれている黄色いリボンをほどいた。定年退職する自分に、部下達から花束と共に贈り物を頂いたのだ。
包みを開くと、漆黒の木箱が姿を見せた。
「何だろう !? どこかで見たような箱だな」
何故か見覚えのある色の箱に疑問を覚えながらも蓋を開く。
なんと、そこには、高級なブランデーと、彫りの深く刻まれたスコッチグラスが入っていたのだ。
「おおっ ! これは。あいつら、私の好みを心得ていたようだな。さすがは私の可愛い部下達だ。早速、晩酌に頂くとしよう」
スコッチグラスにブランデーを注ぎ、色を眺めてから匂いを嗅ぐ。神秘的な香りだけで、脳がとろけるような心地よさを感じた。
「これは香りからして素晴らしい。有終の美に乾杯だ」
数年前に妻と離婚をしたため、家族はおらず、乾杯をする相手はいない。しかし、酒好きな私に、こうして素晴らしい贅沢を与えてくれた部下達には感謝の気持ちが溢れ、満足感を得られた。チーズとサラミをツマミに味わうブランデーは表現しきれないほどの美味だ。
ほろ酔い加減になり、心地好さに眠気が襲い始めたときだった。
なんと、目の前に数人の人影がぼんやりと浮かんだのだ。
「何だ ! お前たちは一体何者なんだ !? 」
『プレゼントはお気に召したでしょうか?』
人影は徐々に、部下達の顔を浮かび上がらせ、一人が口を開いた。
「君達か。どうして、ここに!? 」
不思議に思い呆然とする私に、彼らは鋭い形相を向け、詰め寄ってきた。
「おいっ ! 一体どうしたと言うんだ !?」
部下達が次々と口を開く。
『……今まで、ずいぶんと苦しめてくれましたね……』
『母が危篤状態のとき、あなたが残業を命じたせいで、母の死に目に間に合わなかった……』
『自分のミスは棚にあげて、人の痛い所をネチネチ突いて追い込んだ』
『やたらと体に触ってきて誘いを断ると、私の家族まで侮辱した。私達はあなたを絶対に許さない !! 』
部下達の口から、今まで彼らにしてきた仕打ちの数々が飛び出してくる。一体何なのだ !? 飲み過ぎて幻でも見ているのだろうか ? 頭が混乱して全身が震えあがる。
狂気を込めた瞳達が真っ赤に燃え上がり、私を取り囲んだ。
「やめろっ !! 来るな !! やめてくれぇっ !! 今までのことは謝る。だから許してくれぇっ !! 」
私は、恐ろしさに頭を抱えこみ、膝ま付いた。
『これは、積もり積もっていたあなたへの恨み……そして、あなたへのプレゼントです。苦痛と言う名のね……』
声を揃えて彼らが発した言葉に、漆黒の木箱が脳裏によぎった。
そうだ。数年前、離婚した妻に最後のプレゼントとして贈った箱……。
他の男と浮気をして、プライドをズタズタに傷つけられた恨みを込めて贈ったものだったのだ。結局、妻は浮気相手とうまくいかず、その後、気が狂って廃人のようになったと聞いた。
『この漆黒の木箱に恨みを込めてプレゼントすると、受け取った方は必ず呪われます』
ふと、目にしたネットショッピングで購入し、妻にプレゼントした呪いの箱。
ないがしろに扱っていた部下の手によって、今度は自分に贈呈されたのだ。
余談
プレゼントには、贈る相手への、目には見えない思いが詰められていると良く言います。
恋心、愛情、感謝の気持ち、努力を積み重ねたご褒美、
綺麗な包装紙に包まれた贈り物は、素晴らしく感動するものがほとんどです。
しかし、人に対して酷な扱いをすれば、このように恐ろしい贈り物が届いていてしまうかも知れません。
だから、貴方も気をつけて下さい。
呪いのプレゼントが贈られないように!