東京を寝かさない女はバンドマンじゃなくて良かったと。
バンドマンじゃなくてよかった。本当に。
もし私がバンドマンだったら、過去好きだった人とか愛した人に向けた曲を20曲作ってる。私は片想いしてた人が多かったので27曲とかかもしれない。
過去に向けて愛を叫ぶのってなんて美しくていじらしいんだろう。
過去なんて変えられないし、消えていく一方で消えていく過去が惜しくて人は美化していくだけのものなのに。
あの日、笑ったあの子の笑顔の可愛さとか、意外に短いまつ毛をなんだなって思った時の嬉しさとか、別れ話をした時の喫茶店で流れてた音楽がいやにポップでムカついたとか、好きだったあの子は実は私が好きだったのにたまたま私が学校休んでて告白を聞けなかった時の泣きたい気持ちとか、全部全部鮮明に覚えてるしちょっとだけ美化してるもんなのにそれを歌にしてみんなに聞かせるバンドマンは凄い。メンタル的に。見習いたい。
曲がはじまって3分間、ずっと自分の好きだった人がこれだけ可愛くて、付き合いたくてでもダメで今どこにいるのか分からないけど幸せにくらしてほしい。っていう曲が世界で一番美しいと思う。私も誰かにここまで執着されたい。見たことない、知らないバンドマンの口から吐き出された知らない女に嫉妬する。
3分間、誰かの惚気話を聞かされている気分になってどうしていいのかわからなくなる。友達が変なカップルチャンネルにハマってて「一緒にみよ」と言われた時と同じ気分になる。
うんざりしてると隣の彼氏が「いい曲だったね」と手を握ってくる。いい曲だったね。彼と話してると自分がいかに惨めで汚くて根が腐ってる人間か自覚してしまうのでできる限り話したくない。手は私よりゴツゴツしていて真夏なのにびっくりするくらい冷たかった。それなのに手汗びっしょりで無駄にかっこつけてて引いた。それで冷めた。
冷めたと同時に私が好きなタイプを思い出した、ポケモンセンターでお姉さんに「ポッチャマだいすき!」と一緒に言ってくれる人。全力でラジオ体操ができる人が好きなんだった。
こんな見栄ばかりはって、少女漫画で8000回みた台詞と540回みた行動でしか私の手を繋げない男はもうどうでも良くてその場で別れたいとまあまあデカめの声で言った。
私たちは隅っこで聞いてた。
バンドマンは5曲目のタイトルを叫んでた。
東京ディスカッション
東京ってずるい。とおもった。彼氏は泣いてた。手をますます強く握ってきた。
いつも僕は東京の声が聞こえる。
それは恨みだったり誰かを愛する声だったりする。
だから僕は東京といつも話す。
永遠に話す。だから東京は眠らない。
僕が寝かさないから。
別れ話の最中なのに笑ってしまった。僕が東京を寝かさないなんて、面白い。
「私、東京を寝かさない女になるから。ごめんね。」と言って手を解いてもらった。彼はぽかんとしてた。さっきまで泣いてたのに。
るしあちゃんがクビになってスペースでお気持表明してたヲタクが、カワボの女の子がスペースに入ってきて湧いてる時みたいだった。人間の情緒なんてそんなもん。
手汗から解放されて涼しくなった。
このエピソードも私がバンドマンなら歌にしてる。でも過去付き合って人を悪くいうのは凄いダサい。その悪い事が事実であっても、だせぇ。って言われる。だからあんまり言わないし書かない。
でもこれはいい話だと勝手に思ってる。
そんなわけで私はいま東京を寝かさない女になるべく頑張ってる。
もしかしたら東京を寝かさない女になるには、全てをさらけ出さないといけないのかも。
あの東京を寝かさない男は、MC中に今好きな女の子の話をしていたし、Twitterで検索すると身長も体重も出身校もバレてるし、送ったラブレターは晒されてるし、死にたいとか生きていきたいとか簡単に言うし、とにかく全部知ってるような気持ちになる。
そんなところに東京も安心して色んな話をしたくなるのかもしれない。
やっぱりバンドマンって凄い。メンタル的にも。