元カレにもらった腕時計はいつの間にか止まっていて
こんなふうなクラシカルな腕時計だった。
大人っぽいのに背伸びをしていなくて
制服にも私服にも合わせやすくて
喧嘩別れをしてしまってからしばらくつけていなかった。
けど仲の良い男友達と話しているときに本当はつけたいと言ったら
その人は背中を押してくれて。
悩んだ末にまたベルトを締めた。
シン、シン、というかすかな秒針の音が心地よくて
文字盤を耳につけなければ聞こえないほどのかすかな音だったけれど
眠れないとき
受験の会場で
浪人の会場でも
いつでも耳元で寄り添ってくれていた。
別れてからしばらくして
話し合った、謝り合った。
私の腕時計は息をひそめるように止まってしまった。
あの人の腕時計は今も動いているだろうか。
一緒に時間を刻んでいたあの頃は
私にとって不器用な自分を許せなくなるような苦い思い出もあるけど
笑いあってこの人で良かったと思った時間が確かにあった。
今はもうすっかり連絡も取っていないが
あの人の幸せをそっと陰ながら応援したい。