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佐渡情話一刀両断

「佐渡情話」という物語がある。
 知らない? よし、解散! というわけにもいかないので強引に話を進めるが、あるのだ。
 1962年に美空ひばりがこの物語を元にした『ひばりの佐渡情話』という曲をヒットさせているので、おそらくご年配の方はご存じなのではないだろうか、などと言う私がなぜこの物語を知っているかといえば、ご当地もご当地、ご当地のピンポイント、ザご当地オブご当地に住んでいるからである。ゆえに子供の頃から事あるごとに「昔こんなことがあった」と聞かされていたわけだ。

 大いなる懐疑を抱きながら。

 それはこんな物語である。
 柏崎の宮大工藤吉が佐渡に渡り、漁師の娘であるお弁と恋仲になる。だが仕事を終えた藤吉は柏崎に戻り、お弁は藤吉を想うあまり夜な夜なたらい舟を漕いで柏崎に通う(嘘だろ?)。お弁の執念が怖くなった藤吉は、柏崎に妻子がいることもあり(ただの不倫じゃねえか!)、ある夜お弁が目印にしている岬の灯火を消してしまう。遭難したお弁の遺体が海岸に上がり、それを見た藤吉は自責の念から海に身を投げる。
 おわかりいただけただろうか。子供心にもそりゃあないだろうと思ったものだ。
 たらい舟とは行水に使うような大きな丸たらいに櫂を一本くくりつけたもので、舟を前に進めるだけでも相当な技巧を要する。普通の人が漕ぐと舟だけがその場で際限なく回転してしまうという代物だ。そんなものに乗って毎晩佐渡と柏崎間を往復? 小木と直江津間のカーフェリーでさえ片道二時間半以上かかるのに? 
 いやそもそもこの話のどこが感動的なのか。ひたすら胸糞悪いクズ男の犯罪話ではないのか、とは今日の今日まで口には出さなかったけれど。どう考えても一番気の毒なのは藤吉の妻子だと思うのだが、物語からは完全に抜け落ちてしまってもいる。
 この伝承はとある浪曲師が潤色を加えた「佐渡情話」として全国に広まったのだけれど、その際お弁と藤吉の名を「お光と吾作」に変えた。そんなわけでウチの近所の佐渡を見渡す岬には「お光吾作の碑」なる古い石碑が二つ並んでいる。おい待て、なぜ創作の方に合わせているんだ。それに私の記憶だと、昔は「お光吾作の墓」と言われてたと思うんだよね。主役キャラの墓作ったのかよ。オタクじゃねえか。
 もっとも本当にお弁と藤吉の墓を建てたとしても、自分を殺した奴の隣に葬られたくはないわな。あ、でもお弁なら……。

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