いつかの少女

生徒会、初の?しろほづ。似てないのと、すぐあーや登場させるのはご容赦ください……。お題はいつものとおり「約30の嘘」さまより。


たかが一個差。されど一個差。

わたしは溜息を無意識に繰り返していたようで、隣に座る大学で同じゼミの友人にばしん、と勢い良く肩を叩かれて我に返った。裏表がなく、いつも快活な彼女のことは大好きだけれど、あの、力が強いです。

「痛いよ!!」
「ごめんごめん。でもほづみが暗い顔して溜息なんか吐いてるからでしょ。あとちょっとで男のひとたち来るんだから、しゃきっとしてよ」
「そう言われたって……ご、合コンなんてどうしてればいいかわかんないよ」
「べつに合コンって意識しなきゃいいじゃん。たまたま男女が同数で、たまたま男のひとたちが初対面なだけの飲み会だって」
「それだけで十分緊張するって。うう、来なければよかった……」
「まあまあ、誰かと特別仲良くなれなんて言わないから、適当にかわしてよ。彼氏と喧嘩してるんでしょ?気分転換にちょうどいいじゃん」
「け、喧嘩じゃないよ!ちょっと、わたしが変なこと気にして、ぎこちなくなっただけで……」
「はいはい。じゃあそういうの、今日会うひとに聞いてもらったっていいじゃん。男側の幹事、わたしのバイト先の先輩でT大の院生なんだけど、おなじ学校の院生の人連れて来てくれるって。年上、楽しみだなー」

彼女は彼氏が欲しい!と意気込んでこの会を計画しただけあって、気持ちはすっかりわたしの気持ちより、このあとに現れる予定の、知らない男のひとたちに関心が移ってしまったようだった。まあそれも仕方ない、と思う。わたしだって、何でこんな些細なことでもやもやしているのか、自分でもいまいち分からないくらいなのだ。

きっかけは、一週間前に、一緒に暮らすマンションの一室で食後のコーヒーを飲みながら、彼の飲み会の話を聞いたことだった。
幼馴染であり、今は恋人である彼はわたしよりひとつ学年が上だから、新入社員として今年の4月から企業に就職し、働いている。忙しくもやりがいのある仕事であるようだし、職場の周りのひとたちも皆良いひとばかりだと聞いているので、彼が新しい世界で頑張っていることはわたしにとっても嬉しい。飲み会も入社当初からこれまでも時々あったけれど、日ごろの仕事での大変さを思えば、そういった場には参加したいときにはぜひ参加してきてほしいと思っていたし、そう伝えていた。それは無理してそう言っていたわけではなく、心からそう思っていたのだ。
けれど、一週間前に、ほら、と見せられた携帯の画面の画像と、その写真について楽しそうに話す彼の話を聞いていて、胸がちくりと小さな針で刺されたような痛みを覚えてしまった。
賞状であるらしい厚紙を持ち、笑顔で写真の中心に写る彼の隣には、とっても綺麗な女性がいた。ツーショット写真というわけではなく、彼とその女性を囲むように、若手の人から年配の人までが笑顔で写っている。彼は仕事で良い結果を残し、社内で表彰されたのでその打ち上げの写真だったのだけれど、そのとき同じく表彰されたのが同期である彼女だったそうだ。

やましい様子などこれっぽっちもなく、仕事上のライバルだ、と言っていたし、その言葉に嘘はないと思う。それなのになぜか、その写真を見せられて、「すごいね、おめでとう」と口から出た言葉が、浮かべたはずの笑顔が、ほんのすこしぎこちなくなってしまったのだ。
わたしの変化に敏い彼は「何かあったか?」と問いかけてくれたのだけれど、説明できるはずもなく、どうにかごまかして、その日は早々にベッドに入ることにした。それ以来もやもやして、自然に振る舞うことができない。彼はたぶんわたしの不自然さに気付いているけれど、時折気遣った言葉をかけてくるだけで、無理に問いただそうとはしない。彼はそういうひとだ。

結果、勝手にわたしがもやもやして、勝手にわたしがぎこちなくなって、端的に言ってしまえば、気まずい日々を送っている。そんなある日、今隣に座っている大学の友人に人数合わせだと半ば無理矢理に連れ出され、ここに座っているのだった。

「かんぱーい!」

その後、男性陣は遅れて来るという1人を残して到着し、友人と、その先輩らしき幹事の2人が中心になって明るい雰囲気で会が始まった。出会いを求めて来ていないわたしを気遣ってくれ、幹事の彼女はわたし以外の前に男性が座るよう誘導してくれたらしい。有り難いけれど、たぶんこの後、わたしの目の前にも遅れて来るひとが座るのだろうな。

はあ。また溜息が漏れてしまう。この憂鬱な気持ちは何なんだろう。彼への腹立たしさなんかでは全くなく、彼が笑顔で写真に写っているのを、あんな複雑な気持ちで見つめることになるだなんて。彼の喜ばしいことを素直に心から喜べず、隣に一緒に写る女性のことが気になってしまう。仕事もできる人なんだろう。わたしみたいに子供っぽくなくて、きっと気遣いもできる人で、彼に心配なんかかけない素敵な女性で、そんな人が近くにいたらそのうちわたしのことなんて、

自分で自分を追い込んでいくように悪い考えは連鎖してしまう。あとすこしでじんわり涙が滲んでしまいそうだ、と思った瞬間、どこか聞き覚えのあるような声に思考を遮られた。

「遅くなって、ごめんね。初めまし、……ほづみちゃん?」
「……え、紫野せんぱ、い?」

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