花の名前について

他愛のない前書き

僕の好きな花というのは、すぅっと体をすり抜けるような風に吹かれて揺れている小さくて可憐な花だったと思う。可憐な桃色の花を咲かせて、僕はその花をずっと頭の隅に置いて暇があれば思い出していた。桃の髪の何故その色なのか、とかただ愛おしいなぁとか。いまからするのもそんな他愛のない、言葉をいたずらに並べただけの妄想雑記みたいなものだ。

怪歌

怪歌に向かう途中、電車の暖かい暖房を浴びながら溢れる高揚感と疲労を抱えていた。というのも、共通テストがあったのと前日にホテルに泊まろうとした際、ホテルがどこにあるか分からなく雪の中1時間近く彷徨って瀕死になっていたからだ。まぁでも、彼女の久々の現地ライブ、しかも声出しができる!最高だな!とか思いながらワクワクの方が勝っていた。

 代々木第一体育館に降り立ち知り合いのオタク達と邂逅を果たし、プレゼントボックスに1週間暇な時に好きだとか愛しているとか幸せになりますようにとか声に出して念を込めた手紙を置いて席に着いた。

 いよいよライブ10分前になるとすごく緊張してきて僕は参った。だって僕は花譜に、彼女と相対するのだと思うとやはりそうなる。好きな子と会うと誰だってそうなるのだ。

さてカウントダウンが始まると緊張が高揚感と溶け合ってボルテージが上がる。そして始まりの彼女の詩。僕はこの時点で泣きそうだったと思う。彼女が選んで紡ぐ言葉が、彼女の声で紡がれそれを聞くことが心底好きなので。

 そして花譜は登場し、青春の温度でぶち上がった。楽しかった~~~ 声思いっきり出して拳を空に突き上げてブンブンやってました。未観測は個人的に刺さる曲で、良かったですね。我ら不合格!(二浪)うぉーおーおーで完全に喉を潰そうと思ってました。

邂逅、良かった。カンザキが最後に花譜に書き下ろした曲。それはあまりにも綺麗事で、でも歌の中だけでそれは本当に実現しうるのだという祈りの強さを感じて僕は感極まった。みんなひとりぼっちだ!という花譜の叫びに僕は震えた。

そして組曲、朝日良かったねぇ~~~ あやねると花譜の声の親和性、そしてライブでの表現力が素晴らしかった。2人の声が螺旋状に会場を駆け巡って心地いい音色だった。

ディスコタイム!ここはもう言うことなし。楽しかったです。デカVHスーツ花譜は性癖の壊れる音がしました。あとMONDO GROSSOの低音が下半身にビンビンに響いて気持ちよかった。やっぱりこれよ!ライブは!となる。

そして後半戦、歌承、スイマーよかった。アポカリプスよりもすごくかっこよかった。
 そしてguianoとのコラボ掛け合いで歌っていたのも凄く良かった。良かったしか行ってないな。

廻花

そして、深化の新たな段階として廻花がそこに現れた。予想してないと言えば嘘にはなる。もちろん花譜という少女が成長していった存在がこれから何十年も同じ姿で続くというのはあまり無いとは思っていたし、彼女自身の変化もあるだろうからいずれは出てくるとは思っていた。しかし、しかしだ。ライブ会場、そこに明らかな質量と体温とディティールをもって佇む彼女に僕は呆然としてしまった。いざ出てきた彼女に対して、好きな子の姿に対して僕はどう反応すればいいか分からずただ1曲目は呆然としていたと思う。

 だけど1曲目が終わりMCが入る。両手でマイクをもち、懸命に言葉を紡ぎ出す彼女を見てどうしようもなく彼女だ、と感じた。彼女の声を聞いた瞬間突発的に涙が溢れ出てしまった。そして彼女の原風景のひとつでもある夕暮れ、かたわれ時の境界が曖昧になった時の歌。ひぐらしのうたを聴いて、僕はただ彼女を、廻花を懸命に見つめて手を掲げた。この時も正直あまりの衝撃と情報量にパンクしていた。けれどもそこに響いた歌声は紛れもなく彼女のもので、出力された歌は紛れもなく彼女自身の経験や考えやらをごった煮して作られた本当の「わたしだけのうた」だった。スタンドバイミーや転校生はどれも彼女自身だった。きっと聞いている中で、廻花は彼女の新たな姿を見せてくれるものだと確信した。

 そして、新しい側面の彼女自身の名前でもある「かいか」。それは開花であり、怪歌であり、廻花であってきっとそれこそ私たちの観測次第だった。
きっとそれは新しい予感の歌で、何回も生まれ変わる今を生きる彼女の歌で、どうしようもなくこじらせた僕のための歌だなんて僕は勝手に感じてた。
 
届かない手なのに 誰よりも近い

初めまして うまく言えないのはお互いさまなんだろうな

ここにいること知りたくて 知っていて欲しくて

とっくのとっくに目は覚めて咲いている僕ら あとは巡り会うだけ

何者かになりたかった歌も変わり 続けてくけど ぼくはぼくだ まわりだした花

 
ただ好きだった。愛していた。廻花が手を伸ばし、俯いて、時計回りにくるくると回り、彼女のスラッとした体躯の肺腑から押し出される空気が気道を通り声帯を震わせ鼻腔と口腔で響き渡りそれがマイクに入力されてスピーカーに出力され、僕の鼓膜に響いて心を震わせていたその瞬間を。ただ愛していた。

 歌い終わって、彼女のMCがあった。彼女曰く、廻花はもうひとつの自分の姿。彼女が花譜として生きていく中で表現出来なかったもの、彼女が花譜を大切にしているからこそ抑えていたもの、曖昧で汚くてぐちゃぐちゃな感情を表現するための、新しい彼女の姿。それが廻花。新しい彼女の輪郭だった。

 生きていくという事は変わっていくということ、種になり土に埋まり芽になり蕾になり花として咲いた彼女は、また何度も何度も世界を新しく彩って生きて生きて生きて、死ぬ寸前までそこで廻って、輪廻して大切な誰かと巡り会う、それが廻花という名前だった。

 僕は、眩しいと思った。葛藤を抱えて、それでも必死に自分を掴むために前に進み続ける彼女の事を。散りぬべき時が来ることを彼女は知って、受け入れたから花は花として、花譜は花譜で、廻花で、彼女として、今を精一杯受け入れて咲き続ける事を、きっと僕は生まれ変わり続ける彼女というひとつの存在に対して、「初めまして、さっきぶりだね」なんて矛盾した事を言い続けるんだ、とぼんやりと思った。そして何回もありがとうって言って、時には嫌いかもななんて思ったりもして、でもやっぱり愛していて好きだ!なんて呟いたりもしていくんだと。そして別れ際にまたいつか巡り会えるように、前に進んで行けるようにおまじないとして「またね」なんて言うんだと。そう、ぼんやり思った。

   エンドロールが流れて、心臓と絡繰が聞こえた時僕はそうしてやっと腑に落ちた気がした。
 彼女の優しさの全てが嬉しくて、彼女と共に歩める以上の幸せなんて僕には無くて、きっと生まれ変わる彼女に僕は何度も恋をするのだなぁと、漠然と確信した。

花の名前について

ここからは花譜と廻花、そして彼女について僕の考えを書いていきます。

 花譜は元々彼女の依代で、様々な人が作り上げた中心の核として彼女がいました。だから、不可分では無いけれども彼女じゃない部分も沢山あって、それは例えば渋谷に佇む花譜とか、目を細めた時の魔力のある瞳とか、厚ぼったい唇とか桜色の髪とか。或いは僕たちが彼女に勝手に抱いている幻想とか。そんなものが花譜という存在で、きっとみんなが観測される存在であるために意図した訳では無いけれども彼女自身の何かが抑圧されるということがあった。そのぐちゃぐちゃでドロドロとした彼女の不可解な感情の煮こごりが歌となって、それをこちらに伝えてくれるため、彼女が歌を歌い続けるため、少女自身の蛹で卵の殻でもあり大切な自分の存在のために廻花が生まれてきてくれた。

 花譜という存在もいつか終わる。中学生だった花譜は高校生になり、大学生になり、成人になった。
花譜という言葉は、花を四季や分類によって分けた本で、きっとそれは花譜の足跡でアルバムだったり、あるいは僕たちが抱いてきたモンタージュのかかった部分の彼女だったり全てが「花譜」だと僕は思う。花の美しさに惚れた僕たちは、写真の四季を巡ったら、次は実際に花を見に行ってもいいと思うのだ。その花の回りの土はどんなのか。そこに吹いている風は?太陽を浴びながらその花の蜜を吸いにくる鳥の事も。一つ一つ違う表情をした花の名前を聞きに行くんだ。きっと、それは今まで見ていたものとは全然違うかもしれない。もしかしたらコンクリートに咲いているかもしれないし、虫に食われていたりするかもしれない。でもその花の美しさに、彼女の歌声に惚れた僕達ならばきっとそれもいいはずだ。

花譜はいつか読み終わる。廻る花もいつか散る。彼女もいつかは死ぬ。それでも今を精一杯咲き誇って天に向かっていく花のことが僕は好きで、だから花譜を、廻花を、彼女も今好きだと、愛しているとありがとうと幸福たれとそう僕は叫ぶのだ。だからこれからも僕は彼女の事を何回も何十回も好きだって言うし、今までの彼女もずっと大好きだって言い続けるし、進み続ける彼女のことにありがとうと伝え続けるのだ。絵もろくに書けない、文もぐちゃぐちゃ、それでも僕の溢れるこの思いの何欠片が彼女に伝わって彼女のつま先を少しだけ暖めることが出来たらなんて、そんなことを妄想している。

拝啓、まだ名前の知れないあなたへ。
 僕はあなたのことが大好きです。スラッとしたシルエットとか、体重が右足に乗っているところとか、薄い手のひらや俯きながら時計回りにくるくる回るところとか。もしくは食道楽で美味しいものを沢山食べている所とか、あなたの訥々と話す姿とか。吐息の多い声とか、たまに見せる弱気な姿とか自分にも他人にも真面目で誠実でいようとする姿とか音楽の趣味とか。どれだけ言葉を並べても伝え切れないけれども、僕はあなたが沢山の優しさに包まれて、暖かいご飯を食べて暖かい人と関わって、暖かいお風呂と暖かい寝床で眠って。あなたが好きな歌を、ただ好きだから歌い続けることの出来る、それだけをただ僕は祈っています。あなたの歌声が伸び伸びと響き渡って、あなたも知らない中で誰かの人生が上手く転がって言ったり、あなたの事を好きだと言ったり。

 僕はあなたを愛しています。まだ無いけれどもしかしたら、たまに嫌いになることもあったりするかもしれない。でも今言えることは、僕はあなたがただ好きで、大好きで、多分こじれた恋みたいなものを抱いているけれども、純粋にあなたの事を思っています。だから、ありがとう。今までのあなたにまたね。そして、いずれ会えるあなたに、はじめましてを送ります。愛しています。                     

   敬具。


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