あの家 7
二人でクッキーを食べ終えると、私も庭掃除に加わり、ついでとばかりに境内も掃除すると、その流れで昼食を頂き、私の休日は終了した。
神社に来る時点で、ある程度は覚悟していたが、今日は気分的に疲れた気がする。
幼馴染みの愚痴を聞いたからかもしれない。
それと、これからどんどん変わっていく祭りに、若干の不安と寂しさを感じているからか……。
どちらにしろ、疲れているのは変わりない。
来た道を、なんとなく足取り重く進んで行く。
今日もさり気なく、でも注意深くあの家を通り過ぎる。
どうにかして、不法侵入出来ないものか。
いや、不法侵入は人気がない時間帯なら簡単に出来そうだが、してはいけないだろう。
もっと合法的にお邪魔する手段は無いものか。
回覧板を届けるにも地区が違うし、配達員を装うにしても若すぎる。
宗教の勧誘だったら大丈夫……な、わけはないか。
うーん、家の中までとは言わないにしても、玄関までの5メートルくらいなら、入っても大丈夫では?
あの家に入るには、前に銅製の両面開きの門のような扉があり、そこから丸く大きな石畳が、中の玄関に繋がっている。
玄関には、左に松、右に梅の木があり、太陽の光が僅かにしか入っておらず、見るからにじめっとしていそうだ。
見つかったら、帽子が風で飛ばされて、とかなんとか言って逃げれば良いか。
そうは考えるも、実行に移す勇気はない。
学生でも常識はありますとも。
その常識に縛られて、いや、理性に守られて、今日も私は何事も無いように通り過ぎる。
「にゃぁ」
猫の鳴き声に足を止める。
この近辺に野良猫は沢山いるが、あまり鳴き声は聞いたことが無い。
スっと寄ってきては、勝手気侭に相手をさせられ、サッと帰られて終わりだ。
にゃーと鳴いても、返してくれる事もない。
少しの違和感を感じて振り向けば、いつも神社にいるお猫様が、脚をピシッと合わせてすわり、私を見上げていた。
珍しい、とは思ったが、猫が道路に出ていても不思議はない。
お猫様はもう一度鳴くと、慣れた様子で門をくぐって行ってしまった。
あの家に。