現代詩の世界2022/4/1『イタケー』
ガラス窓は地中海に面している
カツラギ山のふもとの辺り葡萄畑が広がる
夏の午後の日射しの中で夢見みる少女たちは
ふしだらな風船の白い影を交差する
最初から到達する海岸の船着き場のフジツボ、カキ、フグ、フナムシ
ジェツト噴射で岩肌が洗い出され
顔のようなものが、あらわれる
真実は顔料によって違って見えるからコバルトの粉は
吹き上がる地中海のオリーブ色の風の
大気と金の鎖とマーメイドたち
海岸の祠の奥に祭られたウミヘビの神の頭は
人間の目にはザクロの光のように
赤く光りそれは喪失された水平線の邪念の
ビアンカ、そして宙空のアステロイド
彼等は真珠色の背骨を粉砕機にかけて
永き眠りのための蝋燭をこしらえた
イタケーの海面は光速の輝きを保つ
我々自身の腕を海面から上昇する立体的精神の
ワグナー的歴史の音階とスラブの怒涛の音楽
それでもって海へと落下する彗星の美を見よ
イタケーの広がる市場のすみずみまで会話は踊る
ユリウス歴の四月の初め、桜の頃
大阪湾のアサリの吹き出す潮の交わりの上を波は行く
少年たちはかわるがわる堤防から海へとダイブした
船は知らない土地へと『ラムダス』を運ぶ
ふるえる唇の薄い胸の少年よ少女よ
イタケーは壊乱する古代の都市である
お前たちの遠い祖先たちの声は海水の背後
テレマコス、その名はテレマコス
唇をかさねる、まねごとの。