2022/5/29『夏子へ』
願いである、かなえられない
灯台のツバメたちが海へ帰る
ヒット曲のひとつふたつ覚えている
ビニール製の浮輪を風が転がして行く
そんな風にして生きて来たのだと
半透明のクラゲたちが叫ぼうとする時
これは告発であるのか、うすく切られたスイカの
白い水着に着替えて、太陽の下へ、熱い砂に負けそうになり
ふくらんで、おしみなく、けれどあなたではなく
自然の力のまえに、だきかかえられて
死んで行く、魚たちの、赤いエラの、さびしさ
ああ こんなに、欲望の太陽が、浜辺にあふれている
くちびるに、とざされて、歯の奥に、かみつぶされて
ああ ここにも、あふれる、性の欲望が、きらきらと
波をおこし、血液を熱くし、肌を焼いて行く
砂の光の砂の渇きの砂の搔き乱す砂のしみいる
できるならば海の底の冷たい流れの
ばらばらにくだけて死んで行く青い魚の心臓の
そしてそのまま海底の泥の中の目覚めることのない
太陽の爆発、地球の死、宇宙の静寂
わたしは暗黒の わたしは星雲の わたしは拡散の
夏子の体の血の肌のゆるやかな死の
はるかな地平の子宮の内臓する血管の
タマシイのおぼろげのたいまつの自動機械の
ペニスの革命の雷鳴の草原の震撼するリビドーの
はたまた砂の上にしみこむ、なみだの
しずくのように、はらわたのように、ほほえむ
夏子の手は砂を集めて
夏子のひとみは
波のくりかえす
夏子は生きて
太陽のした
ひらかれた
愛のくちびる。