彼女(彼氏)いないの?
「今彼女いないんだよね」
という男性に
「彼氏もいないの?」
と何度か聞いたことがある。大抵の人が
「いやいやいないから!笑」
と言い、私のことを変わってるねと笑った。
高校生1年生の4月。
入学早々、ホームルームで各委員を決めた。
学級委員、体育委員、美化委員…そういった学校を運営する委員会のメンバーを各クラスから数名出す。
紆余曲折を経て、私は体育委員と図書委員の2択を迫られた結果、図書委員を選んだ。
体育委員は準備運動をみんなの前でやらされたり、体育教師とのやりとりが発生すると予想されたからだ。
体育祭でも何かと仕事に駆り出されるに決まってる。絶対にごめんだ。
図書委員の仕事が何なのかは知らないけど体育委員よりは日陰な仕事で済むだろう。
案の定、図書委員の仕事は楽なもんだった。昼休みの貸し出し業務は当番で時々回ってくるけど、主な仕事はその程度だった。
さらに、
「図書委員は掃除の時間は図書室を掃除する」
と決められていたので、教室や廊下やトイレなどの掃除ルーティーンから外れて毎日掃除時間は図書室に行った。
その図書室の掃除も楽なもんで、掃き掃除をするか返却された図書を棚に戻す作業が主だった。
他のクラスや学年の図書委員は「本好き」ばかりだった。
私のような仕方なくなった人間は意外にも少なくて、本が好きで委員になったという人が多かった。
当番とは関係なく図書室に入り浸って本好き同士で貸し借りしたり、マニアックな話に花を咲かせていた。
オタクのど真ん中の人種が寄せ集められたような集団だったけれど、「好きなものがハッキリしている人間」というのはとても付き合いやすい。
ウェーイ系が苦手な私はオタクが嬉々として語る話を聞く方がよっぽど楽しかった。
面白い本も漫画もたくさん教えてもらった。
委員は学年が上がってもそのまま継続する人が多く、むしろ図書部といった空気で居心地がよかった。
受付の奥には図書委員用の小さな会議室があり、図書委員だけが出入りを許されていたがもはや部室同然だった。
いつ行っても誰かがいて、誰かが持ってきた本や漫画が積んである。
部活に入ってる人も部活に行く前にちょっと寄って顔を出す。
え、これただの委員会ですよね???
結局、その居心地の良さから私は3年間図書委員をした。
図書委員の1人に大塚くん(仮名)という男の子がいた。
彼はバレー部で、なかなかのイケメンだった。
他の人のように図書室に入り浸ってはいなかったけれど、時々フラッと部室(?)に来て休憩していた。
ある日の放課後、部室でダラダラと漫画を読んでいたとき、彼も時間を潰しにやってきた。
どういう会話の流れだったかは忘れたけれど、彼は今付き合ってる人はいないという話になった。
私「彼女おらんの?モテそうなのに意外。
どういう子がタイプなの?」
彼「タイプとかよく分かんないんだよねー。」
私「ふーん。
かっこいいからすぐ彼女できそう。」
彼「そうかな?そうでもないよ。」
なんとなく「忘れられない子がいる」か「実は片想いしている相手がいる」んだろうなぁと思わせる話し方だった。
彼とは何度か話したことがあったけれど、この時の会話はなぜか印象に残っていた。
その後高校を卒業して数年経った頃。
ネットはmixi全盛期だった。
mixi上で彼を見つけたときは「お、懐かしいな。元気かな。」と思った。
でもプロフィールを見てびっくりした。
「ハワイ在住のオープンゲイです☆」
ハワイいるの!?住んでるの!?
ゲイだったの!?
しかも本名だからマジでオープンだね!?
mixiには現地のバーで働く気になる男性にどう声をかけようかと悩む日記を綴っていた。
そうか、ゲイだったのか。
だから彼女はいないし好きなタイプもわからないと言っていたのね。
大塚くん、ごめんね。
知らなかったとはいえ、あなたには失礼な質問をしてしまった。
本名でカミングアウトして恋の悩みを綴ってるあなたを想像したら、「ええけん、まず飲み誘いなっせ」って背中を叩いてあげたくなったよ。
今どこにいるのかな。
日本に帰ってきてるのかな。
あなたが幸せだといいな。と願うくらいには私はあなたのことを覚えてるよ。
私は人生で同性愛者に会ったことがない。
と思っているけれど、実際はカミングアウトされていないだけだと思う。
もしかしてこの人そうなのかな、と思ったこともないけれど割合で考えればいない訳がない。
知ってる人のカミングアウトは後にも先にも彼だけ。
彼女(彼氏)いないの?彼氏(彼女)も?
という質問が普通になったらいいのになぁ。