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約100日後に海外遠征デビューするおっさん(たぶん)2話

2話


嵐の夜からはや数週間。
世間はもうすぐ師走を迎えようとした頃。

一見日常の静けさを取り戻したように見えた我が家だったが、おっさん微かな違和感を見過ごさなかった。

・・・魔窟の扉が開かれた形跡がある。

説明しよう。

「魔窟」とはリビングの奥から続く、嫁が長い年月をかけ作り出した異空間である。

元々はよくある和室だったそれ。普段使いをしておらず閉め切ったままだったその場所の変わり果てた姿を最初に目にした時は中々に衝撃だった。

おっさんのような凡人には到底理解できないこだわりをもって収納、積み上げ、放り出されたあれこれ。
もちろんその中に我が推し東方神起のグッズも多数散らばっている。(察してほしい、「散らばって」いる)

狭い我が家、別に和室を押し入れ代わりにすることはまぁアリと言えばアリだと思う。
私に実害が有る訳では無いし、注意をして返り討ちに合うよりはと弱腰傍観を続けてきたのが魔窟を育てる一因になったことは否めない。

気づけば「必要なものは何でも有る」のに「必要な時には絶対に見つからない」、恐ろしい時空の歪みを生み出してしまった。

故に、私は元より嫁も滅多に足を踏み入れることはない。魔窟を生み出した黒ドラえもんすら入ることを躊躇する空間。
その扉が数センチ開き、何かが飛び出している。目を凝らして「ブツ」を確認し、そっと目をそらす。(察してほしい 二回目)

これは嫁が久々に魔窟ダンジョンに挑んでいる動かぬ証拠だ。扉を少し開けているのはパーティへの誘いだろう。
もちろんお断りだ。おっさん、木の棒でラスボスに挑む勇気は無い。

そんな嫁の孤独な戦いを生温かく見守り続けること更に数日。

深夜、嫁が勢いよくおっさんの部屋に突撃してきた。
夫婦でもプライバシーはあるのだからノックもせずに飛び込んでくるのは頼むからやめてくれ。(察してほしい 三回目)

「見てーーーー!!!!!やっと見つけてん!!!!ママ天才やろっ」

自分が仕舞ったものを4日がかりで発見しただけなのに何たる自画自賛、さすが唯一の魔窟攻略者。勇者である。
この達成感を味わう為に自ら魔窟を作り出しているのかもしれない。タイパが良いのか悪いのか。

半ば夢うつつだったおっさんがそんな事をぼんやり考えながら目を向けると、そこには両手に赤い何かを持って仁王立ちする勇者ヨメ。
探し物はおそらくその赤い何かだったのだろうが、寝起きの頭でその姿にツボってしまいこみ上げる笑いが止まらない。

うんうん、確かに見た目勇者に似合いそうなアイテムやけどな、ほんでそれ何?持って踊るんか?知らんけど

心の中でツッコみ爆笑しているおっさんなど意に介さぬ様子で嫁は嬉しそうに続ける。

「これな、カシオペアの公式ペンラやねん!かっこええやろ?2個目の半分まではすぐ見つけてんけど残りが強敵やってさぁ」

2個目の半分?
なるほど、日本のペンライトと違い結構な大きさのあるそれは上下に分解できる構造の様子。
しかしわざわざ分解してバラバラに保管する意味?やはり魔窟は恐ろしい場所のようだ。

「でもな、なんでか知らんけど電池入れるパーツが2個とも無いねん。どうしよ?」

・・・知らんがな。まさかのそれ全部分解されてたんか???

扉の向こうに広がる得体のしれない異空間に一瞬背筋が凍る。This is 魔窟。

そしておっさんはまだ気づいていない。

なぜ嫁の手に勇者の証が“2個”握られていたのか。


伏線の回収は直ぐに始まることとなる。

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