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私と演劇と和希そら

私の路をひらいたもの

そもそも、きっかけが宝塚だった。
ずっと昔の冬の日、たまたまNHKで放送されていた星組公演『炎のボレロ』。
宝塚の名は知っていても見たことはなかった私は、この作品を食い入るように見て、「これは面白い!また見たい!!」と思った。
そんな話を演劇部に所属している友人にしたところ、録画したという。
借りたビデオテープを妹と一緒に見て、妹と一緒に宝塚沼への一歩を踏み出した。
(そして私は紫苑ゆうに墜ちた。)

そこから、東京宝塚劇場で宝塚を観るようになった。

大学に入ると時間にも、お金にも余裕が出てきたこともあり、グランドミュージカルからストレートプレイ、小劇場公演と色々な作品を見るようになった。
それとともに、何か物足りなさを感じて、宝塚は熱心に観なくなっていった。
夫とはこの頃からの付き合いだが、二人とも観劇にはまり、特に『レ・ミゼラブル』にはまって、かなりの公演数を観ているし、1999年のカウントダウン公演も観に行っている。結婚してから今日まで、夫婦で観劇は続けていて、美輪明宏、三谷幸喜、つかこうへい、野田秀樹、ミュージカル全般と色々な作品を観ている。

劇場の非日常感、役者と観客が作り出す空気、こちらは観ているだけなのに、なぜかエネルギーの交換のようなものがあって、おそらく私達も舞台の参加者なのだろうと思える、あの時間。
観劇という趣味は、小さな旅のような、壮大な読書体験のような、感覚が研ぎ澄まされる時間を私に与えてくれた。
時には舞台の世界に入り込んでいる感覚になり、
時には観ながら自分と自分の対話が始まるときもあり。
それは、大袈裟に言うと毎回自分を生まれ変わらせてくれるような体験なのだ。

毎日の日常がドラマチックな子育て期

そんな非日常な空間に行けるかどうかは、こちらに余裕があるかどうかにかかってくる。
子どもが小さいときは、夫の仕事が忙しく、専業主婦であっても完全ワンオペ育児で本当に余裕がなかった。
子どもが一人の時は、親に預けて宝塚を見たりしたけど、子どもが二人になってからはそうもいかず、劇場から足は遠のき、観劇再開は下の子が小学校に入学を待つことになった。
妹が声をかけてくれる宝塚の公演を時々見る日々。
ある日、夫に子どもを預けて用事を済ませて帰ってくると、部屋が寒い。
暖房を付けずにいて、結果、子どもが熱を出し、次の日のチケットが飛んだ。

このことがあって、夫をあてにしない、日時が決まっているものには行かない、と決めた。そんなこんなで、下の子が中学生になって、やっと自由に観劇できるようになった。

あなたと出会ってしまった

また宝塚を観ようと思ったきっかけになったのが、月組公演『BADDY』。
愛希れいかの名前は知っていたし、『BADDY』の新聞評も読んでいたので興味はあった。その頃、私の実家に滞在することが多かった夫が妹と一緒によく見ていた(正しくは、夫がいる横で妹が繰り返し映像を見ていた)から、話も聞いていた。
妹がとにかく見て、面白いから見て、と録画したものをくれたのだが、これにハマった。そして、愛希れいかに惹かれた。
残念なことに、その時点ですでに退団していたので、妹おすすめのちゃぴちゃん出演作品の映像を見る日々。
どんどん送り込まれるスカイステージの録画。実際の舞台は観ていないけれど、『見たことのある』作品は増えていった。

宝塚は広く浅く見よう。
ご贔屓は作らない。
そう決めて、妹が融通してくれるチケットで宝塚を観るようになった。

彼女の名前を知ったのは、『アナスタシア』に誘われた時だった。
実は、私は『アナスタシア』という作品に複雑な思いを抱いている。アナスタシア伝説は知っていたけれど、これをわざわざハッピーエンドの話として作らなくてもいいのではないか、と思っているので。(アナスタシア伝説をモチーフにしていると分かるミュージカルで良かったのではないかと思っている。)
なので、それほど期待をせずに劇場に向かった。
宙組を観るのは、なんと姿月あさと主演の『エリザベート』以来!(1000days劇場ですよっ!)

私 『この組で一押しの生徒さんは?』
妹 『和希そらかな。今回は女役をやっているよ』

そんな会話をしたことを覚えている。でも、この時、あまりにも自然な演技でリリーを演じていたので、男役がやっているとは全く思わず、良い意味で印象に残らなかった。

なんとなく宝塚の情報を追うようになり、彼女が雪組に組替えすることを知り、インスタで流れてきた『夢千鳥』の映像を見て、『和希そら』というタカラジェンヌを少しずつ知るようになった。

妹から雪組『夢介千両土産』『Sensational! 』に誘われた。
芝居でやたらに上手い若手がいると思って、誰かと聞いたところ『あれが和希そらだよ』と教えてもらった。
上手い、上手すぎる。
そして、ショー。
ちょっと待て、めっちゃ私好みの声なのですが。
あれ?ダンスがめちゃくちゃ上手くありません???

こうして和希そらは私の気になるタカラジェンヌとなった。

もう推しは持たないと決めていたのに

そしてその日がやってきた。

『蒼穹の昴』という作品は中国ドラマを見ていたから、話の流れは分かっていた。
雪組で上演されると知っていたけど、妹からお誘いはなかったし、当時は友の会にも入っていなかったので、観られると思っていなかった。
チケットは突然やってきた。
急遽行けなくなった友人の代わりに2枚のチケットが舞い込み、夫婦揃っての観劇となった。(夫は原作ファン。)

原作がある一本ものの芝居であったこともあると思うが、この作品では主要人物はかなり書き込まれていて、魅力的な人物が多かった。
観ているうちに私は順桂という人物に惹かれ、舞台上の和希そらをひたすら追うようになっていた。
台詞がいい、歌もいい、表情もいい。
順桂の持っているバックボーンや心情がとてもよく分かる。
うまい、こんなにうまい役者さんだったんだ。
2幕には順桂の見せ場がいくつかあり、阿片窟でのダンスも、テロの場面もかなり集中して観ていたことを覚えている。
すごい、こんな風に踊れて、こんな動きができるんだ。
そして、フィナーレの歌唱指導・・・
赤い衣装を着て、せり上がり、振り向いた時の笑顔・・・

このときから、『もう推しは作らない』という禁を破って、和希そらを追うと決めたのだった。

その日から早2年。
その間に、主演作品を生で観られて、直後に退団を発表するとは夢にも思っていなかったけど、
私は今日も和希そらのことを考えて暮らしている。


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