恵迪寮寮歌の人気ランキングを読み解く(2022年)
はじめに
北大恵迪寮で、明治40年(1907年)から毎年のように寮生自らの手によって作られ続けている寮歌。100年以上の歴史の中で、作られた寮歌は120曲を超える。そんな数ある寮歌には「頻繁に歌われるメジャー寮歌」と「曲をほとんど聞いたことのないマイナー寮歌」とが存在しており、これらは時を経て変化している。つまり、寮歌にも人気や流行りが存在しているのである。
今回は過去に人気寮歌について分析した記事を参考にしつつ、3つの時代に行われたアンケート結果を見比べながら、人気寮歌の変遷について紹介していく。
今回参考にした記事は以下。
アンケート結果
ランキング1
2003年(平成15年)に行われたアンケートに基づくランキング。ランキング2が発表された際に、過去のランキングと比較するという形式がとられており、同時に紹介されていたようである。ランキングは以下の通り。
ランクインしている寮歌はいずれも王道であり、ゆったりとした曲調のものが多いもの特徴的である。
ランキング2
2010年(平成22年)、第102回寮祭の企画である寮歌祭にて寮歌人気ランキングが発表された。これは事務室前でアンケートをとったもので、有効投票数は不明とのことだが、それなりに集まっていたようである。このときは日本三大寮歌としても名高い「都ぞ弥生」殿堂入りとし、これを除いたランキングが作成された。結果は以下の通り。
アンケートの直近数年に作られた寮歌が3,4位にランクインしている。また、昭和50年代の寮歌が半数近くを占めていることも特徴的である。
ランキング3
2022年(令和4年)に行われた最新の寮歌ランキングである。投票方式などは前回とほぼ同じと見られ、有効投票数は50以上であったようだ。今回は「都ぞ弥生」も含めて集計されている。結果は以下の通り。
平成20年以降の寮歌が多くランクインしているのが、最大の特徴。ランキング2では選外となっていた「湖に星の散るなり(S16)」や「楡は枯れず(S55)」など4曲がカムバックしていることも興味深く、根づよい人気を示す結果となっている。
*ランキングは寮歌普及委員会などによって不定期的に実施されること、かつ資料なども十分に残されてはいないことが多いので、これら以外にもアンケートが行われているかもしれない点についてはご容赦いただきたい。
なお、他にも資料があったら提供していただけると嬉しい。
考察1
過去2つのランキングを比較した際に指摘されていたのは、曲のテンポには左右されず、各々の良さを感じていることや癖のなさ=歌いやすさが人気の一因ではないかということであった。また、昭和50年代には人気曲が多くあるとされてきており、ランキング1,2はそれがよく反映された結果となっている。
まずは「テンポ」、「歌いやすさ」、「昭和50年代」の3つをキーワードにしながら、最新版のアンケートを見ていきたい。
ア)テンポ
過去2回ではゆっくりめの曲調の寮歌も多くランクインしている(2003年は半々、2010年は7:3)。しかし今回ははっきりとアップテンポ優勢という結果になった。ゆっくりな曲調の寮歌は4つのみと少なくなっている。なお、これについては寮歌の盛り上げポイントと関連付けて、別で分析したい。
イ)歌いやすさ
これについては今まで通りに、癖のない歌いやすい曲調のものがランクインしている点で共通していた。人気曲とはすなわち多くの人が歌うということとほぼ同義であると考えると、それに適した音楽性というのも無意識的に必要な条件になっているようだ。人気寮歌の最低条件として歌いやすいということが挙げられるのだろう。ウラを返せば、曲調が難解なものは「歌いにくい⇒歌われなくなる」と言える。これは寮歌が主に口伝であることが多分に影響しているだろう。
ウ)昭和50年代
良曲が多いとされ、過去2回で2/7曲(2003年)、4/10曲(2010年)と高い人気を誇っていた昭和50年代寮歌であるが、今回のランキングでは1/14曲とその人気に陰りがみえた。代わって増えたのが平成寮歌であり、その隆盛についても別で取り上げたい。
考察2
ここからは特にランキング3について、過去の記事にはないオリジナルの切り口から結果を見ていきたい。先の考察1を踏まえて、さらに掘り下げたい部分がある。キーワードは「盛り上げポイント」、そして「平成寮歌の隆盛」である。
あ)盛り上げポイント
これが表現として適切なのかはわからないが、過去の珍報でこの表現を目にしたことがあるので、今回はそれを使わせていいただく。歌の合間に合いの手を入れるなどして盛り上がる部分を指す表現といえば伝わるだろう。(*なお、この表現は定着していないことからもおそらく公式、共通理解の域にはないだろうと推察される。)
最新版でランクインしているアップテンポ寮歌に共通するのが、盛り上げポイントが明確である点だ。合いの手だけでなく、テンポが上がる部分で飛び跳ねたり(「楡は枯れず(S55)」など)、皆が声を揃える特定のフレーズ(「不香の花ぞ(H29)」の2番「ナナカマド」の部分など)があるなど、より盛り上がる曲が多いように感じる。こうしたものは意図して作られたものばかりではないはずだ。後の寮生たちが寮歌を楽しむうちに自然にあるいは意図的に発生し定着していったのであろう。
い)平成寮歌の隆盛
最新版ランキングでの昭和50年代寮歌の減少については先で触れたが、その一方で目を引くのが、平成寮歌の多さでもある。2003年以前と以後で平成は15年ずつ、前半後半に分けることができる。2003年までの15年間に作られた寮歌のランクインは2つであった。ところが、そこから15年後の2022年にはなんと7つもの寮歌がランクインする結果となったのである。(正確には令和4年までの34年間で8曲が入っている。)
これらの主な要因として考えられるのが、「普及度合い」と「歌いやすさ」だ。新しい寮歌は積極的に普及されるので、普及度合いが高く、比較的歌える人が多い印象である。それが人気にも影響を与えている面はあるだろう。実際に、すべてのランキングにおいて直近3年以内に作られた曲がランクインしている。また、平成の寮歌の特徴として短い番数とキャッチーなメロディが挙げられる(*)。覚えやすくて歌いやすいという面も人気を後押ししているのではないだろうか。
(*)時代別の寮歌の特徴については、以下にまとめているので興味があればどうぞ。
所感
ランクインした寮歌について、在寮時の印象からすんなりと納得できたものから意外だなと思うものまであったので、少しコメントしたい。
まず上位は比較的納得度が高かった。瓔珞みがく(T9桜星会歌)、星の舟唄(H20)、都ぞ弥生(M45)、若人よ(H12)、楡は枯れず(S55)、奔る流れ(R1第111回)あたりは順当な感じがした。
反対に意外だったのは、「咲く六華よ(H27)」と「不香の花ぞ(H29)」の2曲だ。僕の在寮時、とくに2020年頃にはあまり歌われなくなっていたので、ここ2年くらいのトレンドなのだろう。ちなみに、「咲く六華よ(H27)」は僕が入寮した当時はメジャー曲でよく歌われていた。
また、「湖に星の散るなり(S16)」は支笏湖畔でよく歌われる曲であり、支笏湖に出かけることが増えているように感じるので、歌う機会が増えたことや実際にゆかりの地でこの歌を歌った経験が人気を支えているのかな、などと勝手に推測する。
続いて、今回ランクインしておらず個人的に意外だった寮歌もいくつか紹介しよう。
広がるはただ青き旅路ぞ(H23)
ーー言わずとしれた人気曲であり、コンパの立ち合いでは必ずといっていいくらい歌われていただけに意外であった。
蒼空高く翔けらむと(S2)
ーー数年前には新歓寮歌にもなっていたくらいにメジャーな1曲。ランクインの条件にも合致する曲だが…。
草は萌え出で(S53第70回)
ーー士幌を代表する1曲。過去には1位にも輝いているが、やはり昨今の士幌離れが影響しているのだろうか。
うす紅の(S54)
ーー唯一過去2回のランキングでともにランクインしていた曲で、50年代を代表する1曲。歌詞にまつわるエピソードもあって人気は高かったように思えたが、今回は選外に。
最後に
今回はとあることから寮歌ランキングを目にし、比較する記事を書くに至った。その中でランキングを通して見えた新たな変化もあり、寮歌の現在を知る1つの視点となっていると感じた。今後とも定期的にデータを収集、蓄積していけば、より定点的に変遷をたどることも可能だろう。
寮歌という全国でもここにしかない生の文化の情報を書き留めることは続けていければな、と勝手に思う次第である。
おわり。
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