田名網敬一~記憶の冒険~

 国立新美術館「記憶の冒険」はアーティスト田名網敬一の初の大規模個展である。田名網敬一は開幕2日後の8月9日に88歳で亡くなった。

 たまたま日曜美術館で「記憶の冒険」特集を見て、行ってみたいと思った。つまり、僕は田名網敬一を亡くなってから知ったのである。

 行ってみたいと思ってはいたのだが、10月は仕事が忙しくて東京に帰れず(京都で単身赴任中)、11月11日の閉幕まであと一週間というところで、何とか間に合った。

 現代アートに疎いので、たぶんズレたことを言うが、田名網敬一は年齢は違うものの、京都で観た村上隆と同じような印象を持っていた。色使いが鮮やかで、ポップで明るくて爆発力のある作品群。

 けど、違った。

 村上隆と一番違うのは直接的なエロティシズムだと思うのだけれど、不思議と猥雑な感じがしないのだ。「性」というよりも「生」をイメージした。

 インタビューで「戦争」により焦土と化した目黒を疎開先から帰って目にした時の強い記憶を語っているが、田名網にとって「戦争」はずっと心の中にあって、「NO MORE WAR」「DO  NOT BOMB」などのメッセージを発し続け、エロティシズムやアメコミのヒーロー、若冲などとともに戦闘機を描く姿勢は亡くなるまで変わることはなかった。彼の作品は「戦争反対」であるだけでなく、「生」「夢」そして「死」も混じり合っている。

 村上隆と一番違うのは直接的なエロティシズムではなく、戦争体験なのかもしれない。

 改めて調べれば、田名網敬一と村上隆とはスタートラインが違う。けれど、同じ方向を目指してたような気がするのだ。ズレていたら、ごめんなさい。

 ただ、戦争体験の有無は二人の根幹という意味で大きく違うと思う。田名網敬一の個展を観て、圧巻でもなく、感動でもなく、「空」を感じた。何だろうな、作風と真逆に「達観」を感じた。

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