おこめのおはなし~その10・新・米だ! (シン〇ゴジラのノリで発音してください)
秋。
食欲の秋。
そして新米の秋ですね。
とは言うものの、地域によって新米の時期は大きく違っているのだとご存知でしょうか?
先の方の項で県推奨米である『 ハツシモ 』の名前の由来は、初霜がおりる頃に収穫時期を迎えるからですとご紹介しました。
お米は収穫時期によって『 早生(わせ)・中生(なかて)・晩生(おくて) 』と大まかに三つに大別されますが、10月以降に収穫時期を迎えるハツシモはこの晩生にあたります。
最近では、中生はあまり言われなくなって、早生と晩生のみで区別されることが多いようですね。
早生・晩生と言われますと、田植えをしてから早く育つ品種と長く時間をかけて育てる品種と二種類あるのか、と思われるかもしれません。
そうではなく、田植えの時期が早くまた刈り入れが早い品種が早生、田植えの時期も遅く刈り入れもおそい品種が晩生、なのです。
早生品種はだいたい、4月までには田植えを終え8月頃までに収穫を終えます。
有名なコシヒカリは早生品種にあたりますので、夏休みが終わるころには『 新米 』のシールが貼られてたお米が店頭にならぶのですね。
ハツシモは6月半ば頃までに田植えを行い、収穫は10月半ば頃に刈り入れとなります。
出荷までにライスセンターでのお米の乾燥は1ヶ月ほどかかりますので、我が家の保有米がおうちにやって来るのは11月の終わりのころ、まさに初霜のおりる頃になります。
余談ですが中学生のころ、某有名な忍者漫画を読んだとき主人公たちの親世代が田んぼの作業をしながら「しかし、四分六ではのう」「せめて折半やったらのう」「正月をこえても米がたべられるのにのう」というセリフを言っていた記憶があります。
四分六、折半、というのは年貢として差し出すお米の割合をさしています。
つまり四分六とは、農民たちの取り分は四割しかなく、六割も年貢米として搾取される、という意味になります。
漫画のなかの主人公たちの住まいは、東北地方の設定だったと記憶しています。
たしかにあちらの地方は、早生品種が多いです。
なので早生品種のお米を年貢として納めていたとしたら、たしかに手元に四割しか残しておけないのであればお正月をこえたらお米が食べられない勘定になるなあ、と思い感動した記憶があります。
実際に徳川江戸幕府の時期の東北地方のお米の品種が早生品種であったかどうかまではわかりませんが、こういう細かいところで生活スタイルを匂わせる手段があるんだ、と目からウロコの思いでした。
(そんなところに感動する中学生もどうなんだ、というツッコミは受け付けません……)
一般的に早生品種は年をこすと味がおちると言われていますが、それはまあ、収穫されて白米にされたら即、劣化が始まるわけですし、八月に出荷がはじまったお米がお正月をすぎたら味が落ちてくるのは仕方ないことです。
別に、お米が悪いわけでも管理している業者さんが悪いわけでも何でもなく、自然の摂理だと思います。
ハツシモは晩生品種ですので、一般的な考えですと年明けの夏近くまで味が保てます。
両親の住まいであるお隣の市では、配達直前にお米を精米するので、理論的には常に新米に近い状態なわけですが、それでもやっぱりその年にとれた新米の威力には適いません。
こればかりはお米農家でなければ堪能できない、味わえない味だと思います。
新米の特徴として、水分保有量の違いがあります。
ライスセンターできちんと水分を飛ばしてもらっていても、やはり、保有米としてうけとったばかりのお米は水分が多いので、炊飯ジャーの水分量で炊き上げるとちょっと柔らかくなりやすくなったりします。
そういう場合は、最近の機種にはほぼついている機能、早炊きスイッチオンです。
するとちょうどいい具合の炊き上がりになります。
(あくまでも我が家の好みの硬さですが)
新米はお米を炊いている最中の匂いまでちがいます。
なんていうのか、こう、炊飯ジャーからあがるプシューと水蒸気といっしょに、ぽわ~ん……と主張しすぎない、しかし魂をわしづかみにしちゃうお米の糊成分がもつ甘い香りが四方八方に向けてえんりょなく拡散されるのですね。
家中がお米の匂いに支配されちゃうと、もうこうなると条件反射でおなかがぐーぐー、空いてきます。
炊き上がりのメロディと同時に蓋を開けると、つっやつやのもっちもちのお米がお出迎えしてくれます。
ほわほわと湯気をたてて、ピン、と白く張ったお米はまさに『 お米の粒がたってる! 』状態です。
炊きたてのご飯はお茶碗も熱くしてしまうので、早く食べたいのにちゃんと持てず、四苦八苦するのもご愛嬌です。
お茶碗によそって、好みの具をたっぷりいれたお味噌汁とおつけものと海苔があれば、幸せ気分にひたれます。
海外旅行にいくと、みなさんの楽しみのひとつに食事があげられると思います。
その国その土地の名物料理は、確かにすばらしく美味しいです。
主食となるパンやパスタや麺類や点心は、日本では味わえないまさに『 本場の本物の味 』で病みつきになってしまうものです。
が、それでも、旅行中に一度は『 ああ、ご飯食べたい 』と思ってしまう日本人のサガ。
それは日本人の『 心 』というか、そう『 ヤマト魂 』というものに、がっつりとこの、『 お米の味 』が浸透しているからではないか……と心密かに思っているのです。
なまじの禁断症状などよりも、深く手ごわくタチ悪く攻めてくる『 お米食べたい病 』
そんな心の隙間を、充分に癒してくれるお米。
これからの時期、農家の皆さんがぜひ味わってほしいと望んでいる『 新米 』が、今日もどこかでぽこぽこと音をたてながら炊飯ジャーの中で炊き上がりつつあるのでしょう。
※ 注意 ※
『早生(そうせい)・中生(ちゅうせい)・晩生(ばんせい)』とも
稲作においては『早稲(わせ)・中稲(なかて)・晩稲(おくて)』ともしますが、あまりなじみのない方もおられると思い、混乱をさけるためにも他の農産物と表記をそろえました。また、稲作についてもこちらの表記でも間違いではありません。
※ 注意その2 ※
エッセイの最中に登場した忍者漫画のセリフは、白土三平著・カムイ伝より引用しております
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