おこめのおはなし~その5・お金のはなし――ちりもつもってボディブロー
その3の項は出費モンスターである農機具のお話でしたが、今回は別の出費、細かく細かく、『 塵も積もれば山となる 』的な出費についてお話したいとおもいます。
お米を育てるために、まず最初にしなくてはならないお仕事は、『 田おこし 』、つまり田んぼの土を撹拌する作業です。
この作業にはトラクターを使います。
なぜ、田おこしが必要なのかという説明をかるくさせていただきますと、次の田植えの行程の前に必要となる、『 代掻き 』のためです。
水田、とよく言われますが、水を張った田んぼに稲の苗がちょんちょん、と植えてあるイメージはけっこう皆さん、すぐに思い浮かべられるのではないでしょうか?
あの、苗を植えられる状態に『 持っていく 』のが、代掻きです。
つまり田んぼに水を入れてどろどろ状態にしてあげて、苗を植えやすくする前準備のさらにもう一段階前の準備、というわけですね。
でも、それだけではなく、重要な意味があるのです。
実は、田おこしを怠るとすぐに雑草やヒエやアワが生えてきてしまうのです。そうすると、田んぼの土から栄養がすいとられ、傷んで弱くしまうのですね。
なので、稲刈りから翌年の田植えまでの間に、2回ほど田おこしを行わねばなりません。
田おこしと代掻き。
どちらもトラクターを動かすには当然、燃料が必要になりますね。
たいていどのメーカーさんのトラクターでもディーゼルエンジン仕様ですので、燃料は軽油になりますが、これの出費がばかになりません。
しかも、田おこしは乾いた土を引っ掻くわけですので手入れはまだ楽なのですが、代掻きは違います。泥田で行うので、トラクターをきれいに洗わなくてはいけませんから、水道代が発生します。
地域によって水道料金と下水道料金の指針は違うと思いますが、我が家の場合、代掻き一回で月の水道代金が1・5倍になります。
地味にイタい出費です。
その3の項で『 推奨米 』というものがある、と軽く紹介しましたが、これは『 県をあげて生産と販売を奨励しているお米の銘柄 』という意味です。
そして現在、私の住まいである県では、この推奨米にさらに『 レンゲ米 』という付加価値をつけています。
レンゲとは蓮花。
そうです、春になるとピンク色の可愛い花を野原で咲かせる、あのかわいらしいぼんぼりのような花のことです。
蓮花は豆科の植物で、豆科植物の特徴として根っこに窒素成分をためこむ性質があります。
すこしくわしく理科を習ったかたならご存知かもしれませんが、窒素は植物の育成に欠かせない養分です。
おいしいお米が実る手助けするためにも、肥料などで補ってやる必要がありますが、しかし近年は化学肥料よりは自然のものを、という意識の移り変わりがあります。
そこに目をつけたのが、『 蓮花の有機成分のみで育てたお米 』という付加価値をつけた『 レンゲ米 』なのです。
しかし、ほうっておけば蓮花の花が勝手に田んぼ一面に咲いてくれるわけではありません。
蓮華の種はJAさんから購入します。
それをこう、田んぼの中を歩いて、ぽいぽいぽいぽいとなるべく均等になるように蒔いていくわけなのですね。
この蓮華の種の代金が、耕作面積に比例してかかってきます。
(他県では蓮花の種の代わりに元肥用、田植えの前に田んぼにまく肥料代がかかってきます)
ちなみにこの地方の付加価値米、十数年前は『 アイガモ米 』といって、合鴨に田んぼの雑草や害虫をとらせる減農薬米でした。
(小学校向けのN◯K教育などで特集番組が放送されたこともありますので、知っていらっしゃる方もおられるのでは、と思います)
この『 アイガモ米 』
あっという間にすたれてしまいました。
なぜかと言いますと、一反につき、おおよそ10羽ほどひなを購入するのですが、育苗途中でネットの囲いをかいくぐったりつきやぶったりして、おそろしく脱走しまくるからです。
逃げて見つからなかったら買い足さないといけない割には、育った後の引き取り業者の少なさと買いたたきにあったからです。
育った合鴨1羽の買い取り値段は、ひな10羽のおおよそ1・2倍から1・5倍。
途中の買いたしを考えると農家さんもJAさんも手間ばかりかかり、そうかと言って等級に付加がつくわけでもなく、何の得もなかったので当然かもしれません。
さて、それでは次に、田に植える苗にかかる代金の内訳をみてみましょう。
現在我が家では、田植えの時期にちょうど良い高さにまで育った苗をJAさんから購入しています。
育苗農家というものが周囲で認識されはじめてきたのは、ここ20年ばかりのことですが、それまでは家で苗箱というものに、育苗に適した土と種もみを蒔いて育てていました。
実家では割と早い段階で苗を購入していたのですが、我が家では数年前まで育苗を行っていました。
育苗に必要なのは、苗箱、土、種もみの三つですが、これらにも当然代金が発生します。
育苗にはまず発芽するまでの間、『 発芽機 』もしくは『 育苗機 』という、発芽に適した温度にたもってくれる機械に苗箱をいれます。
当然、電気代がかかってきてこれがばかになりません。
発芽した直後は、もやしのようにひょろひょろとした頼りないものですが、これを畑において水やりを行ううちに、りんとした濃い緑色の苗に成長するのです。
そしてここでも、やっぱり水道代金が発生します。
我が家の場合は、1町分の苗を育てた場合、上水道代金が毎月平均の倍にはねあがりました。
かなりイタい出費です。
兼業農家であった実家は、苗場といって育苗に適した水量のある田んぼで苗を育てていました。
そうする際にも温度を保つために、マルチのようなものをしたりミニハウスのような形状にしたりと手間はかかり、家で苗から育てていらっしゃる農家さんではそれらの材料代もかかってきます。
さて、現在の我が家のようにJAさんを通じて育苗農家さんから苗を購入する場合、箱ひとつにつき、だいたい800~900円かかります。
JAさんのところに、苗箱を取りに行けば800円前後。
田植えをする田んぼに直接配達を頼むと、箱一枚につき100円余分にかかります。
田んぼ一枚につき、苗箱はだいたい15~20箱必要になりますので、我が家の場合ですと最低ラインの15箱で計算したとしても1反につき14,000円ほどかかることになります。
次にいよいよ田植えですね。
田植えを行えば、田植え機の燃料代がかかります。
自宅で苗をつくるにしろ、育苗農家さんから購入するにしろ、苗箱を洗いそして泥まみれの田植え機を洗うのに、またまた水道代金が発生します。
容赦なく、水道代金が加算されていきます。
田植えがすめば、季節がらあぜ道などに草が生えてきますので草刈を行いますが、これにも燃料代がかかってきます。
苗が育ち出穂するまでの間に、やはり2回は肥料をまくことになりますし、出穂時期にあわせて農薬散布を行います。
農薬散布は個人で行う場合と仲間うちで行う場合とがありますが、それぞれに出費がかさんでいきます。
ちなみに、広範囲におよぶ田んぼを仲間内で行うときは無人小型ヘリを飛ばします。
(たいていは夏休み期間の早朝に3回行われ、この日はラジオ体操がお休みになるので子供たちはみんな「らっきー♪」と口をそろえます)
稲刈りの季節を迎えればコンバインを動かすための燃料代、そして刈り取ったお米を運ぶためには軽トラックが必需品です。
コンバインも、使用後に丁寧にエアブラシでクズをはらわないと故障の原因になりますので、丁寧に洗浄します。
もう一つは、農作業を行えば、とうぜん作業着が汚れますので、作業着を洗わねばなりませんが、コレの回数がバカになりません。
午前中に作業をし、昼食を取るときにシャワーをあび、そして食事後に再び作業に出る。帰ってきたら、またシャワー。泥で汚れた作業着は其の儘洗濯機で洗うと、泥がモーターに詰まって洗濯機が壊れてしまいますので、下洗いをしてから洗わねばいけません。
農作業中、洗濯は最低2回は回数が増えます。
お米をJAさんの施設、ライスセンターというところで預かってもらい乾燥などの作業をしてもらうのですが、そのための代金も必要になります。
あれやこれやの諸経費を計算してみましょう。
苗の代金。
蓮華の種や肥料や農薬の代金。
各種農機具の燃料費。
農機具類洗浄するためと、作業着の洗濯をするための水道代金。
ライスセンターなどJAさんにしはらう代金など。
以上で、合計20万ほど、軽くふきとんでいますね。
しかもこれらは、お米の代金が農家に支払われるまえに請求されるのです。
農家さんはどうしてるのかというと、ボーナスから差し引いたり、前年度のお米の収入をそのまま残しておいたりして、やりくりしています。
我が家のお米の収入は最高で1年で80万ほどですが、そのうちのすでに4分の1が必要経費として消えている勘定になっているのでした。
※ 稲作カレンダーとして、わかりやすいHPを参考までに
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