【ニューヨーク滞在記】③ついに来たNY、1年ぶりのエリックとの再会
奇跡の羽田出発を経て、12日の午前11時20分(現地時間)、ついにJFK空港へ着陸した。
同時に、日本で借りたポケットWi-Fiを起動させ、家族などへ到着の報告を行う。エリックからは、「ターミナル1で待っている」とメッセージが来ていたので、「もう少しでそこに行く」と返信した。
飛行機を降り、ベルトコンベアからスーツケースを引き取ると、入国検査の列に並んだ。4年ぶりのアメリカ本土。慣れない英語に戸惑いながらも、検査では「a week」「sightseeing」などの旅行ガイドに載っている簡単な単語を発し、無事通過した。
到着ゲートでは、10人ほどが待ち受けていた。プラカードを掲げる人もいる。エリックはどこだろう…と見渡すと、その時、「ミハルさん!」との声。
他でもない、エリックだった。昨年9月にアイスホッケー部の夏合宿で行った、北海道以来の再開である。
初めて彼と会ったのは、2年前の10月。それから約半年間、取材という形で彼と何度か話した。自分の英語力の低さもあり、その時は十分に会話をすることができなかった。しかし、北海道合宿で再開し、震度5強の地震や、八戸までのフェリーで共に時間を過ごしたことで、少なからず仲間としての絆は深まったと感じている。
話は戻ってニューヨーク。「Long time no see」「Thank you」などの言葉で、再会の嬉しさを伝えた。言語がきちんと通じるならば、迎えに来てくれたことへの感謝や、再会の嬉しさ、奇跡のフライトを経て到着した喜びなどの気持ちを、伝えたいのに…。
そんなもどかしさを抱えつつ駐車場へ向かうと、エリックの足は青い車の前で止まった。後ろに荷台が長く伸び、日本の小さな道路で走るのは難しい大きさだ。アイスホッケーの道具を入れるためなのだろう、これが自家用車なのだという。助手席に乗り込むと、「家に行くか、お腹がすいてたらどっか寄る?」と聞かれたが、小刻みな機内食の影響によりお腹が空いてなかったので、まず家に向かいたいと答えた。ちなみに、後に車種をググったら、ハイラックスというらしい。
しばらくすると、メッツの本拠地・シティフィールドや、後に行くことになるヤンキースタジアムも見えた。眼前に広がる町並みを見て、フロリダの記憶がよみがえる。あの時も、現地の友人が空港まで大きな車で迎えに来てくれたんだった。アメリカ人はどうして、こうも優しいのだろう。
車内でも私たちは、私の下手くそな英語と、エリックの覚えたての日本語を交えながら、何とか会話を成立させる。彼が来年、大学院でスポーツ科学を学びに再来日する可能性があることや、アイスホッケー部の近況などについて話しをした。アイスホッケー部の話題になると、彼の口調も熱を帯びる。本当に彼らのことが好きなのだろう。
旅について話題が及び、私はとにかくおいしいハンバーガーが食べたいと言うと、オススメの店があるから今度連れてくよと返答が。他にも、行きつけのピザ屋があるから、そこも行こうと言ってくれた。どちらも、滞在中にい連れて行ってもらい、絶品だったので、後に出てくるはずだ。
高速などを使うと、30分ほどして家に到着した。マンションの12階に上がると、Ericと書かれた部屋が見える。
まるで一軒家かと思うほどの大きさで、キレイな家だった。タナカさんも住むからか日本式で、靴を脱ぎスリッパに履き替える。リビングには、ホッケー道具がそこら中にあった。パソコンの横には、立大アイスホッケー部の卒業記念グッズや、寄せ書きが大事そうに飾ってあった。
彼はテレビをつけると、気を使ってかNHLのチャンネルに合わせてくれた。私は荷物を整理し、まず予定を確認。といっても、そもそも行けるか分からなかったし、きちんと旅の計画をする時間もなかったので、決まっていたのは野球とバスケとホッケーの試合だけだった。そこで、せっかくならば4大スポーツを全て見てしまおうと思い、NFLの日程を調べると、なんと翌日にニュージャージーで試合があるではないか。すぐさま購入した。
また、市内の観光スポット6か所の入場券がセットになっている「シティパス」もクレジットカードで買う。どちらも、すぐにメールでQRコードつきのメールが送られてきた。なんて便利な世の中だ。
いくつかの用事を終えたが、まだ一つ、重要なやるべきことがあった。ヤンキースのチケットを転売することである。なぜならば、この時、チケットを15日と16日の2枚持っていたのだ。
実は、ヤンキースタジアムでの試合が15日~17日の日程に確定する前、12日、13日、19日、20日のチケットが売られており、とりあえず買ってしまえと13日の試合を買った。だが、相手がアストロズに決まったことで、ヤンキースタジアムでの試合も15~17日になり、私は急いで15日のチケットを買った。私が持っていた13日のチケットはその時点で払い戻しになると思っていたが、しれっと16日のチケットに変わっていたのである。
後から分かったのは、当初売り出されていたのが、ホームゲーム用のチケット、つまり、決まっているのはホームゲーム第〇戦というだけで、日程は確定していないということだった。そのため、私が最初に買ったチケットには13日とあったが、「ホームゲーム第2戦」のチケットで、16日に変更されてしまった。
2試合行ってもよかったのだが、すでにバスケの試合に行く予定を入れてしまっていたので、売り払う必要が生じた。
Sutab hub で売ろとしても、英語表記のためよくわからない。さらに、そのチケットもWILL CALLという球場での受け取りにしていたので、簡単に売り払うことができないことが判明する。経緯をエリックに言うと、「おれがやるよ」と助け舟を出してくれた。そこから1時間、チケット販売元にチャットでやりとりをしてくれたり、コールセンターに問い合わせてくれたりしてくれた。そしてようやく、転売サイトに出すことができた。あとは、売れるのを待つだけ。本当に、なんて優しい人なのだろう。
用事を片付けた時には、15時だった。エリックに「どうする?シティに行ってみる?」と聞かれたので、とりあえずうなずく。すぐに身支度をし、家を出た。15分ほど歩き駅へ向かうと、乗ると思いきや、「なんか飲むかい?」と言われたので、ここでもうなずいた。スタバでコーヒーを手に入れ、地下鉄に乗り込んだ。日本では、電車での飲食はタブーだが、コーヒーを片手に地下鉄へ乗るのがニューヨークスタイルなようだ。エリックも、「日本でコーヒー片手に電車にいた時、そんな人いなくて最初はびっくりしたよ」と言っていた。
私の故郷であり、彼も住んでいた志木駅周辺の話題で盛り上がっているうちに、彼が下りるぞというので、後ろをついていく。駅名を見ると、「Times Square」とある。
ついに来たのだ。人ごみをかき分けるように歩くと、正月のカウントダウンなどの映像でしか見たことのないタイムズスクエアが、目の前に現れた。いくつものスマホがそれに向けられ、人々が写真をバシャバシャと撮っている。
ニューヨーカーの彼は興味が無いようで、すたすたと歩く。少しするとナオコさんの姿を見つけた。彼女と話すのは2年ぶりで、取材した時は、同時通訳までしていただいた。北海道地震の際には、ナオコさんのおかげで新幹線のチケットを取ることができたと聞いていたので、まず、その時のお礼をした。
すぐに2人は歩き出し、また後ろをついていくと、ホテルのようなところで足が止まった。有名なハンバーガショップのようで、行列ができて入れそうもない。断念し、別の店に入る。風貌は、ステーキショップのようだ。着席するとエリックが言った。「ここはバイソンの肉のハンバーグが美味しいんだ」。
「バイソン!?」
よくわからないが、おいしいならばそれで良い。そして、来たのがこれ。
がぶり。がぶり。
噛むと同時に、肉汁が滝のようにこぼれ落ちる。ベーコン、オニオン、チェダーチーズ、(たぶん)レタス、トマト、ピクルス、目玉焼きとのコンビネーションに、「うま!!!!」と言うことしかできない。言われなければ牛肉とそこまで違いは無いように思えたが、少しさっぱりしていたような気もする。ググると、バイソンの肉は低脂肪・低カロリー・低コレステロールとあるのは、そのためか。どちらにせよ、かねてからおいしいハンバーガーを食べたいと思っていたので、大満足である。
その後、エリックは友人のホッケーチームの試合に手伝いに行くからと分かれ、私はナオコさんと市内を散策した。まず、NHLとNBAのショップに連れて行ってもらった。
NHLショップはワンフロアで、ニューヨーク近郊のホッケーチームグッズを中心に、全チームの帽子やシャツなどが売られていた。NBAショップは3階までグッズで埋め尽くされ、大柄なバスケファンがおしかけていた。そんな光景に、スポーツ人気の高さや市場の大きさを実感した。ちなみに日本では、チームのショップはあっても、NPBなどの統括団体のショップは無い気がする。
それからは、後々行くことになるトップオブザロックや、冬に向けたスケートリンクの工事をしている公園、神殿のような外見のニューヨーク公共図書館などを散策した。時刻が20時となりそろそろ疲れてくると、帰ろうということになり、グランドセントラルという駅に行った。
白塗りの大きな建物で、日本で言う東京駅のような存在だという。中は高い天井に星の絵が書かれていて、何人もの人が写真を撮っていた。
電車まで数分あったため、地元紙「DAILY NEWS」を買ってみた。その日からアストロズとのリーグ優勝決定シリーズが始まることもあり、1面と最終面が連結する形式で紹介されていた。ヤンキースは、2年前にもアストロズとリーグ優勝決定シリーズで対戦し、3勝4敗で敗れているため、見出しは「リベンジャーズ」。日本のスポーツ紙みたくユニークで、フッと笑った。
開くと、初戦を任されたマー君がでかでかと載っている。結局彼はこの日アストロズ打線を7回無失点に封じ、勝利に貢献した。斎藤佑樹との名勝負を知る世代としては、あれから約10年後、ニューヨークのど真ん中で活躍する姿を見ると、誇らしい気持ちになる。
30分ほどして最寄り駅に到着。帰った後は、きれいに用意されたベッドに倒れこんだ。よほどの疲れか、気づくと深夜になっていた。起こしてしまったら申し訳ないなと思いつつ、シャワーを浴び、再び夢の中へ。こうして1日目が終了した。