足の裏の米粒を取りたかった話①

建築士の資格は「足の裏の米粒」と建築界隈では言われている。

「取っても食えないが、取らないと気持ちが悪い」

つまり、資格を取得しただけで食べていくことはできないし、かといって資格をとらないのはどうも決まりが悪い。そんなわけで足の裏の米粒と呼ばれているのだ。

今回は私が建築の道に進みたいと思うようになったきっかけの話をしたい。
(建築家を夢見てから大学に合格するまでの話は「足の裏の米粒を取りたかった話②」、大学の建築学科に入ってからの話は「足の裏の米粒を取りたかった話③」として、社会人になって一級建築士の資格を取得するまでの話は「足の裏の米粒を取りたかった話④」としてそのうち…。長編になります。)

「大きくなったら何になりたい?」
「将来の夢はなに?」
「就職は何系を目指すの?」

子どもの頃から就職するまで、言葉は変われど、この先どうしていきたいのかを聞かれる機会は多々あった。

人生で一番最初になりたかったのはお肉屋さんだ。2歳とか3歳とかの話。
よく覚えてないけど母から聞いたところによると、よく行くお肉屋さんのおばちゃんに可愛がってもらっていて、それでお肉屋さんになりたかったようだ。

そこから、小学校に上がるくらいまではお花屋さんとかケーキ屋さんとか、よくある感じだったと思う。

小学校低学年の時は何度か入院した影響で看護婦さんに憧れた。(今は看護師という呼び方が主流だと思うが当時は看護婦さんと呼んでいた)

小学校中学年の頃は獣医さんか芸術家になりたかった。動物も絵や制作も小さい頃からずっと好きで、それを仕事にしたいなあという、あまり深くは考えていなかった。

小学校高学年になった頃、いままでの純粋な、好きだからなりたい、という考え方はできなくなってきた。
まず、獣医さんは患者(患畜?)を助けられなかった時のことを考えると、自分にはそれに耐えられるだけの気力がないと思って諦めた。
次に、芸術家は、自分が凡人であることにふと気づいてしまったので気づいてしまった時点で無理だと思って諦めた。

自分がなりたいものはなんだろう。

小学校高学年くらいになると自分の将来の夢が他人にどう見られるかが気になってくる。
「医者」「政治家」「教師」あたりは大人へのウケがいい。
ついでに思い出したが、私のクラスで流行ってた将来の夢は「公務員」だった。なりたいものがない子がとりあえず公務員になりたいと言っていた。
小学生が公務員になりたいって言うの、ちょっとそういう時代だったんだなって。

小学校高学年は意外と将来の夢を聞かれる機会が多く、夢がはっきりと決まらない私は、なんとなく「図工の先生」と答えていた。
自分の好きな絵を描いたり制作したりすることに関係があって、なおかつ、なれるわけ無いじゃんと言われなそうな夢。あとはこのとき習っていた図工の先生がすごく好きな先生で、その先生の影響もあった。

そして、小学校6年生あたりから、将来の夢は「建築家」に変わった。
きっかけはまず「建築家」という職業を知ったところから。
これまで私は絵や制作をするのが好き、という延長で工作でドールハウスを作ったり、想像で建物の間取りの絵を書いて遊ぶことが多々あった。ノアの箱舟の話が好きで、動物たちがみんなで暮らすシェルターをよく描いていた。でも、それを仕事にしようとは思っていなかった。

建築を仕事にすることに興味を持ったのは1冊の本がきっかけだった。本のタイトルは覚えていないが、安藤忠雄の本だった。
暇つぶしに読む本がたまたま無かったので、父が図書館で借りていた本を適当に拝借した中の1冊だった。
父は建築関係の人間ではないのだが、旅行が好きで、淡路夢舞台(淡路島にある複合リゾート施設で安藤忠雄が大きく関わっている)を知った時に安藤忠雄に興味を持って本を借りてきたようだった。

建築にあまり関わりの無い人でも新国立競技場関連で安藤忠雄の名前を見かけた覚えがあるかもしれない。
まあ、雑に言えば世界的に有名な建築家である。

それで、私はその本を読んで建築家という仕事(仕事というより生き様?)を知った。
自分の身の回りに建っている建物にはどれもそれを設計した人がいるということはなんとなく分かっていたが、その設計者として想像していたのは建物を作る会社で働く名も無きサラリーマンだった。
だから、個人の名前で建物を設計していて、しかも世界で活躍している人がいるんだと知って建築家に猛烈に憧れを持った。

それから私は建築家になるにはどうすればいいかを調べ始めた。
どうやら一級建築士という資格があり、大学で建築を学んで、実務経験を積んで、試験を受ければ取れるらしい。
もしかして、少し前に諦めた芸術家よりは簡単になれるのではないか。小学生の私はそんな舐めたことを考えた。
一級建築士を取ったとしても建築家として食べていけるかは別の話なのに気づくのはもう少し後になってからである。

そんなわけで、自分の興味に関係していて、ちょっとカッコよくて、大人のウケもよさそうで、なれるわけないじゃんと笑われない夢として、将来の夢を「建築家」と答えるようになった。


このあとの話は「足の裏の米粒を取りたかった話②」に続く予定。


ちなみに小学校の卒業文集には「一級建築士になりたい」と書いてある。小学生の私、見ているか?建築家にはなれなかったが一級建築士の資格は取ったぞ。


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