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ガルフのススメ

一時期は落ち込み気味だったカメ人気もすっかり戻って参りました。それどころかいまではカメは人気の爬虫類になった感があります。実際にウチのお店でもカメが1番人気です。少し前までは、「若いのにカメが好きなんて良いね」などと言われて先輩方に可愛がっていただけたのですが、それも通用しなくなりました・・・笑。
それは私が業界側の人間になったせいでもあるのですが、そんなことはどうでも良いことです。

そんな昨今ですが、変わらずに人気を保っているのがアメリカハコガメの仲間、通称”アメハコ”です。アメハコの仲間は半陸棲、つまりはほぼ陸で生活をするミズガメです。陸で生活するならリクガメではないのか?思われる方もいるかも知れませんが、リクガメはリクガメ科のカメのことを指しますので悪しからず。実際に大昔は高価なリクガメの廉価版として安価でぞんざいに扱われていたようです。

そんなアメハコの現在は陸棲のミズガメということで、ミズガメの良さとリクガメの良さを兼ねているということで人気が高いという訳でもなさそうで、派手な体色とフォルムからであるというのが私の見解です。

アメハコとはアメリカハコガメ属のカメの総称です。”箱亀”の名の通り蝶番というロイヤリティを獲得したことにより、甲羅を完全に閉じることができます。ハコガメはアジアに生息するアジアハコガメもいますが、アジアハコガメがイシガメ科なのに対して、アメリカハコガメはヌマガメ科です。これは収斂進化といって別の種が同じような環境下に置かれ似たような性質を獲得するといったものです。爬虫類では特に旧大陸と新大陸の間でこのようなことが見受けられる印象です。実に面白い。

アメリカハコガメ属 (Terrapene)にはカロリナハコガメ (T.carolina)、ニシキハコガメ (T.ornata)、ヌマハコガメ (T.coahuila)、ネルソンハコガメ (T.nelsoni)の4種類が属しています。ヌマハコとネルソンは基本的に流通しないため(ヌマハコはサイテス Ⅰ )、流通しているのはカロリナとニシキです。

アレ、アメハコってもっといなかったっけ?と思われる方もいるかと思います。
そこのところがややこしややし。いや、そこまでややこしくもないのですが。
ニシキハコガメには2つ、カロリナハコガメには6つの亜種が存在します。そのため、流通するアメハコは8種類ということになっています。ニシキハコガメにはひとまず触れません。今回はカロリナハコガメのお話です。

ひと昔よりもう少し前くらいの文献では、カロリナハコガメとして括られているものもあるのですが、現在ではそのようなものは見受けられなくなりました。それくらい恐らく誰がみても違いがわかるくらいに各亜種に相違点があります。なぜいまだに亜種扱いなのかというくらいですが、ここが学術とホビーの違いであり面白さでもあると考えています。

まずカロリナハコガメは以下6亜種です。
トウブハコガメ (T.c.carolina)
ガルフコーストハコガメ (T.c.major)
フロリダハコガメ (T.c.bauri)
ミツユビハコガメ (T.c.triunguis)
メキシコハコガメ (T.c.mexicana)
ユカタンハコガメ (T.c.yucatana)

このように”カロリナハコガメ”と名乗っても良い基亜種でさえ、トウブハコガメと呼ばれています。一応、通な人は学名呼びでカロリナと呼ぶことがあり、私もカッコつけて使ったことがあるのは内緒です。恐らく発音的にはキャロライナと呼ぶ気がしますが、不確かな憶測であることと、本当に伝わらなくなってしまうのでどうでも良い話です。

基亜種のトウブハコガメ

ちなみに最近では分類が多少細分化されたようで、トウブを基亜種とする3亜種とメキシコハコガメを基亜種とする3亜種に別れたようなのですが、浸透しているのかどうなのかということで、ここではカロリナ6亜種で話を進めていきます。

ちなみにメキシコ3亜種の分類は
メキシコハコガメ (T.m.mexicana)
ミツユビハコガメ (T.m.triunguis)
ユカタンハコガメ (T.m.yucatana)

になります。上記でも述べたとおり、もっと細分化されても良いだろと思うのですが、とりあえずはこの2グループ内が近縁であることが分かっていると考えて良いかと思います。

メキシコハコガメ

カロリナハコガメの各亜種はメキシコ産のメキシコ、ユカタンはまだまだ国内繁殖は軌道に乗っているとは言えませんが、そのほかの種類は繁殖が進んでいて選別による色彩などのクオリティにも磨きがかかっています。これがポリジェネ。

そんなバリエーション豊かなアメハコの中で、1種類だけ玄人好み、渋め、もしかしたら不人気の種類がいます。それがガルフコーストハコガメです。

ガルフコーストハコガメ

最近のアメハコ人気の底上げによって、ガルフ(ガルフコーストハコガメの意)の人気も上がってきたように思いますが、まだ真の魅力に気づいている方は少なく感じます。そこで今回はガルフとはどのようなカメなのかを解説していこうと思います。他のカロリナとも比較して解説していきますが、若干他種を下げるようなニュアンスに感じられるところもあるかも知れませんが本意ではありません。あくまでも私の独断と偏見とユーモアであることをご了承ください。

そもそもなぜガルフは不人気なのか(ついに言ってしまった)ということですが、一つめの理由は大きさにあると考えます。アメハコが人気の理由の一つは甲長が15cmほどで、比較的コンパクトに飼育できるという日本の住宅事情にマッチしているところが挙げられます。一方でカロリナハコガメを調べると、属内最大種最大甲長21.6cmとありますが、これはガルフのことを指しています。大きくなるということは非常に魅力的であると思うのですが、恐らくそれはマイノリティ・・・笑。大きくなりすぎるということで敬遠される方も多いようです。成熟した個体はガタイもよく、特に巨頭化したオス個体は迫力もあり非常にカッコイイのですが…。
実際には20cm近くまで育てるのにはそれなりの技術が必要です。大きな個体でも他のアメハコと2、3cmくらいしか変わらないんじゃないかとも思うのですが、この差が敬遠される一つの要因ではあります。カメは甲長が15cmを越えたあたりからミリ単位で大きさの印象が変わってくるので、他種と比べてより大きな印象があるのかも知れません。ちなみにカメの甲羅はドーム型になっているので、メジャーではなくノギスというカメの甲羅を測るために開発されたマシーンを使った方が正確です。甲長が記載されていてもメジャーによる目測なのかノギス計測なのかで甲長は変わると考えていた方が良いかと思います。

ノギス計測の例
当然ながらカメを測るために開発されたものではない。

次の理由として体色が地味ということが挙げられます。真っ黄色が1番人気のトウブハコガメ、黄色 x 黒のコントラストが美しいフロリダハコガメ、赤いミツユビハコガメと、アメハコは派手さが魅力の一つです。特にオスのアダルト個体はドギツイ発色をしているものもいます。
一方のガルフはというと発色は控えめ・・・、というよりもそこまで選別されて繁殖されている個体が少ない印象です。一昔前のガルフの印象は茶色という感じで、それが一般的に地味なカメという印象を植え付けているのではないかと考えます。

ブラウンタイプのガルフ
最近みかけなくなってきている。

実際にはトウブのように色彩の個体差はかなりあります。現在では茶色いものはブラウンガルフやノーマルと呼ばれ、そのほかにイエローガルフやオレンジガルフなどと呼ばれある程度区別されるようになりました。あとの問題は発色です!笑。個人的にガルフは甲羅の模様というよりも顔の発色が大事なのではないこと考えています。何者でも顔が命です。イエロー系では塗りたくったような黄色のような個体も見受けられますが、基本的には色素が薄い個体が綺麗な印象です。そのため中間色というかなんとも言葉で表現することが難しいのですが、ガルフは上品ということにしておきましょう。ただアダルト個体になるまではどのようになるのかわからない面があるので、育成と繁殖の両面で検証の余地があります。それらも含めて綺麗なガルフは発展途上なのではないかと考えています。

色素が薄目のイエローガルフ
これからどうなっていくか。

そんな上っ面な商売トークはこのへんにして、ここからは真のガルフの魅力をご紹介しましょう。それは身体能力の高さにあります。陸場でも水場でも活発に活動し、そのどちらでも摂餌活動をおこなうのはアメハコではガルフだけだと言われています。冒頭で触れたミズガメの良さとリクガメの良さを兼ねているという言葉はガルフに当てはまると思います。

なぜ身体能力の高さが魅力であるかというと、基本的にアメハコは鈍臭いカメです!ということが私の感想です・・・笑
故にアメハコはアメハコとして飼育しなければならない感があります。
というのも基本的には陸棲のカメなのですが、特に成長期では少しの感想でも甲羅が歪むのです。そのため空中湿度を多めにとりますが、蒸らしすぎるとカビたり皮膚病になったりするため管理がめんどくさい大変なのです。

そこで便利なのが水飼いというものです。
要は普通のカメのように水の中で飼育するというものです。水に甲羅を浸しておくことで甲羅を保湿しておくことができます。ただしこの飼い方には注意が必要です。

それは、アメハコは溺れるという点です。

最も水棲傾向が強いと言われているフロリダハコガメでもこれは起こります。なんなんだお前ら。どのように溺れるかというとひっくり返って起き上がれないというものなので、一応起き上がれる個体は大丈夫だと思われます。

このようなデメリットもあり、特に幼体の管理は大変なところがあります。
その点ガルフは身体能力が高いため、そのような心配は低い印象です。少なくとも私はいままでそのような失敗はありません。むしろ水深を取ってガンガン泳がせることで代謝も上がり成長も速い印象です(私の飼育方法なので正しいのかは分かりません)。

これらのことからガルフは他のカロリナハコガメとは少し違うということが分かっていただけると嬉しいです。一説によればトウブから1番先に分岐したようなので、ロンリータートルな進化をしてきたのかもしれません。
実際にリクガメ寄りの生態をしているアメハコにおいて、ミズガメ寄りの生態をしているガルフはヤマガメフリークの方などアメハコ好きとは違うジャンルに需要がある印象です。

ブラックガルフの血が入った個体。
ブラックガルフはカロリナ寄りな印象で甲羅の厚みなど普通のガルフとは明確な差違が感じられる。

アメハコ人気は止まることを知りません。これから飼育に挑戦してみようと考えている方もいるかと思います。入門種としては小型で価格もリーズナブルなことから、ミツユビハコガメが取り上げられていることが多い印象です。確かにコンパクトに飼えてアメハコ飼育のノウハウを得るのには良いかも知れません。正直、これだけバリエーションがあるため自分が良いと思った種類からはじめれば良いと思いますが、私は何も考えずに飼育をはじめられるのはガルフだと思っています。そしてこれはガルフ感覚で他種を扱って苦労した私の経験談でもあります…笑。

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