私とヘビの関係性
ここまで私が爬虫類ライフをはじめてから思いれの深いテグー、お店をはじめてから思い入れの深いオーブリーフタスッポンを題材として記事を書いてきた。トカゲ、カメと来たらヘビだろうと思うのであるが、私はヘビが苦手である・・・笑。
そんなことを言って爬虫類屋としてどうなんだと思われる方も多いだろう。おっしゃる通りである。だがしかし私の苦手は世間一般的の苦手な人とは違う感覚であると考える。上記の2種のような思い入れの深い種類もいるのであるが、どうしてもネガティブなことを書いてしまいそうなので予防線を張らせていただいた。今回はそんな私がヘビを苦手になっていったかなり一方的な話である。
私がヘビの飼育をはじめたのは、社会人になり実家を出てからである。それは母親がヘビとは一つ屋根の下では暮らしたくないというくらいのヘビ嫌いだったからである。ヘビは神話などで縁起の良いものとして扱われることも多いが、悪者として扱われることも多い。瞼がないことなどが挙げられるなど妙に観察されているなと感心するのであるが、その独自な形態から人間は昔からヘビに嫌悪感を抱いていたことがわかる。そのため私の母親のようにヘビを全く受けつけない人も多く見受けられるが、私の苦手とはそのような類のものではないのである。ちなみに母親は爬虫類は全般的に苦手なようだが、ある程度は理解を示してくれたためカメやトカゲは飼育していた。そのような環境で育ったため、爬虫類が苦手な人の気持ちも理解しているつもりである。
そして一人暮らしをはじめてヘビを飼育できる環境になった訳であるが、いざ何を飼おうという時に飼いたいヘビがいないという現象が起きてしまった。厳密に言えば買えるヘビがいないという側面もあるのであるが、長い年月を経てカメやトカゲの意欲は向上したが、ヘビへの興味は薄れて行ってしまったのではないかと考える。
そんな時にソロモンからビブロンボアが輸入され購入したのがヘビライフの始まりである。ビブロンを含むCandoia属はクサリヘビ科(Viperidae spp.)のような顔をしており非常にカッコいい。その中でもビブロンはボリュームもあって飼いごたえがありそうで、輸入されたら飼育してみたいヘビの一つだったのである。そして私は天性のコレクション癖があり、カンドイアをコンプリートする道に進むのであった。
ここで誰も興味ないと思うがCandoia属を紹介しておこう。和名ではナンヨウボア属と呼ばれるが、単純に"カンドイア"の方が話がはやいことが多い。カンドイアは名前からもわかるようにボアである。ボアとはボア科(Boidae)のヘビのことを指すがニシキヘビ科(Pythonidae)もこちらに分類されることもある。どちらかというと私はこちらのイメージなのであるが、分類のマイナーチェンジが激しいため詳細は省く。とりあえずボアはアナコンダ(Eunectes murinus)に代表されるグループ。ニシキヘビはパイソンと呼ばれ革製品などにも用いられる大型の有名な種類が多いグループである。どちらかというとボアの方が特殊な生態をしている種類が多いが、とりあえず極めて近しいグループであるという解釈で大丈夫である。基本的にニシキヘビが旧大陸、ボアが新大陸に分布している。これに対してカンドイアはインドネシアなどの旧大陸に分布している。このことからも癖のある連中であると想像できるのであるが、グループ自体は大きくなく5種類である。
バイパーボア(Candoia aspera)
代表的なカンドイアといえば本種。アダーボアなどとも呼ばれるように毒蛇に似た容姿をしている。最大全長で60cmほどだが頭が大きく身体も太いので長さの割にはボリューミーな印象である。
パシフィックツリーボア(Candoia carinata)
恐らく最小種。バイパーより長いが太さは1/3~1/4程度なので、かなり小さくみえる。小さいため扱いやすいと思われがちだが、爬虫類食が強いため導入時に1番苦労する印象がある。色々な和名があるが、単純に"カリナータ"と呼ばれることが多い。
パシフィックグランドボア(Candoia paulson)
元々はカリナータとは亜種関係であり、ハブモドキボアなどの和名があるがどちらのことを指しているのか分からないほど浸透していないため、こちらは"パルソニー”と呼ばれる。元々が亜種関係であったとはいえ、太さや長さがまるで違うため判別は容易である。もしかしたら幼体時は判別しづらいかもしれないが、カリナータはキツネ顔、パルソニーはタヌキ顔と覚えておけば大丈夫である。本種は亜種やロカリティが多い。
Candoia superciliosa
未入荷の幻のカンドイア。そのため和名もまだない(はずである)。写真も何枚かしかみたことがないので本当に本種かも分からない。ちなみに本種のためだけに洋書を取り寄せようかと考えたが、割高だったことと本当に載っているか疑問であったため断念した過去がある。
そしてビブロンボアである。本種が久々に輸入されたことにより私はヘビの飼育を開始した。ちなみに本種はソロモンツリーボア(Candoia bibroni australis)と言う亜種である。基亜種はフィジーツリーボア(C.b.bibroni)で現地で厳重に保護されており国内には未入荷なsuperciliosa以上の幻のカンドイアである。
このようにカンドイアで流通する3種は入手が比較的容易だったため、ビブロンが輸入されたことによりコンプリートが可能になった。ちなみに最初はビブロンを買い占めてビブロンの王になってやろうと考えたが、思いのほか大量に来たため断念した記憶がある。そのようなことからビブロンがトリガーとなりヘビライフ改めカンドイアライフが始まったのである。
今までの屈折した爬虫類ライフの影響からか、初ヘビがカンドイアという屈折したヘビライフが始まってしまった。一般的に気性が荒いと言われているカンドイアであるが、実際はそこまでではないというか個体差によるところが大きい。バイパーとパルソニーは怒り狂うような個体もいるが、他の種は基本的には逃げたいヘビなので持ってしまえば平気という場合が多い印象である。ただ持ってしまうまでが大変なので基本的にハンドリングはしない。それは基本的に普段はじっとしており何を考えているのかイマイチよく分からないことと、給餌の時にノーモーションで向かってくるからである。普通のヘビは舌を出しながら寄ってくるので、餌を与えるタイミングが測れる。それに対しカンドイアはじっとしているところでどの角度からでも急にくるのである。これは恐らく野性下で鳥やトカゲ類、カエル類などの動きの速いものを食べているためであると考えられる。またピット器官がないことも関係しているのではないかと考えられる。ボア科の種は口のまわりに温度を感じるピットと呼ばれる器官が備わっている。この器官を用いて獲物を捕獲していると考えられており、多くが爬虫類ではなく恒温動物を摂餌している。この器官を持たないカンドイアは視覚と反射で摂餌している印象である。カンドイアの他にもピットを持たないボアやパイソンもいるのであるが、カンドイアほどではないが反射的に摂餌している印象が強い。これらのため起きているのか寝ているのかも分からないような個体を安易に触ろうとすると手を餌と間違われて飛んで来られることが多いのである。ちなみに噛まれればそれなりに痛い・・・笑。歯が長く数も多いためそれなりの流血をするため作業中止を余儀なくされるのである。またヘビはご存知の通り手足がないため、食いついたエサをアゴの関節を外しながら歯をずらすような形で食道へ送る。エサと間違われて噛まれると巻きついてきてこの作業をされるのでこれがなかなか痛いのである。ヘビに限らず爬虫類はエサと間違われた時はエサでないとその個体が気がつくまで離してくれないため、威嚇の時より傷口が広いことが多い。ヘビの場合は気が付くと「間違えた」というような表情とともに高速でスルスルと解いてくれるのであるが、その時の肌触りが中々良いため喰われるのがやめられないドMでは私はない。このようなヘビを扱うことが多かったため、私はどのヘビを扱うときも触るときに頭をこちらに向けたら手を引っ込める癖がついてしまった。そしてハンドリングが非常に下手である。
一般的なヘビのエサとは冷凍マウスである。現在ではどのような手段でも購入することが可能であるため、エサに苦手意識がなければヘビの飼育が非常に容易であるといえる。非常にどうでも良い余談であるが、私は潔癖症であるため餌用の冷凍庫を用意している。マウス自体は無菌室で育てられていることが多いため、衛生的であるが、動物や動物を触った手で触った用品を触った手で冷凍庫を触るのが嫌なのである。そのため食品と一緒に冷凍マウスを管理するのに抵抗がある気持ちも理解できる。そのような方にはまとめて買った方がお得になる場合も多いので、動物専用の冷凍庫を購入することをおすすめする。その分、生体も増えていってしまうかもしれないが・・・笑。話を戻すとカンドイアはどの個体もすんなりと冷凍マウスを食べてくれるという種類ではない。そのためマウスに餌付けるところから飼育がスタートするといっても過言ではないのである。基本的にカリナータ以外は購入するお店でマウスを食べているので、特にメス個体(カンドイアは雌雄で体格差がありメスの方が大きい)やアダルトの個体は持ち帰ってもすんなり食べてくれる個体も多いのであるが、半分くらいは環境が変わった影響でリセットされると考えていた方が良い。この場合、代謝の早いヘビではないことと輸入されてから何回かは摂餌していることから焦る必要はない。上記のように環境に慣れた個体はノーモーションでくるため、舌を出しながらエサに近寄ってきてそのまま通過するような個体はリセットされている可能性が高い。餌付けは個体のサイズによって変わるが、ヤモリを使うことが多い。ヘビは拒食も多いのであるが、一般的な拒食とは少し違うのではないかと考える。
上記にカリナータ以外はと述べたが、カリナータはほぼ爬虫類専食であるため活ヤモリが必要になってくるが、マウスに餌付けることも可能である。マウス以外を専食するヘビのことを”変態ヘビ”と呼称される。カンドイアも変態ヘビのグループに括られることが多いが、変態気味なのはカリナータだけではないかと考える。基本的な餌付け方は活ヤモリ→ピンセットで掴んだ活ヤモリ→ピンセットで掴んだ冷凍ヤモリ→ピンセットで掴んだ冷凍ヤモリの匂いをつけたピンクマウス→ピンセットで掴んだピンクマウスという感じである。省略する部分もあるがピンセット=エサと認識してもらうことが重要である。これをおこなっているうちに個体の特性も把握できることと、ピンセットで生きたヤモリを掴むことが上手になる。他の変態ヘビのマウスへの移行にもこの方法が代用できる。スッポンの記事でも述べたが、変な物を食べている動物は変な顔をしていて非常に魅力的である。根気とエサ代が若干高いが、普通のヘビライフとは違う楽しさが味わえるのである。
というわけで今回は私の思い入れの深いカンドイアについて述べてきたが、私の屈折したヘビ愛は伝わっただろうか。このようなことから、一時期は”ヘビの人”と思われていた節があるほど、カンドイアや他の変態ヘビを扱っていたのである。一方で王道的な哺乳類食で陸棲の繁殖個体のヘビをあまり飼ってこなかったためか、扱い自体はあまり上手くはない。そもそもがトカゲから入った人間としては、脱皮中にエサをあげてはいけないであるとか中々に面倒臭い動物だなと思ったりもするのであるが、それ以前にトカゲと比べて何を考えているのか分かりづらいといおうか、間合いが取りづらい動物に私は感じる。お店を始めてから初めてコーンスネークを扱ったのであるが、すんなりマウスを食べるしノーモーションで飛んでこないし非常に扱いやすいのであるが、やはり間合いは取りづらい。これは若い頃の長い間にヘビを扱ってこなかったことも関係しているのではないかと考える。何事もどこから始めるかということは重要である。個人的には種の中で初心者向けの種、上級者向けの種というものはあるかもしれないが、初心者はこのトカゲ、このヤモリ、このヘビからスタートしなければいけないということはないのではないかと考える。そこが基盤となり技術や知識を高めていくことが大切なのである。私の場合はヘビ飼育の入り口からか、または爬虫類飼育の入り口からか、変態ヘビに限らずヘビという動物は向き合うことに少々根気がいる動物になってしまったように感じる。ただ餌付けは散々おこなってきたため、ヘビ以外でも仕事でかなり活かされている。これらのことからヘビには少し苦手意識があるというか、胸を張って扱いが得意であると言えないのである・・・笑。
ここまで3回に渡って爬虫類の話を長々とダラダラと書いてきたのであるが、裏テーマは人からみた爬虫類。要は動物観である。人のことばかり言っているのも良くないので、今回は私の経験をもとに客観的に考察をしてみた。他人の感情や思考を分析することは悪趣味と捉えられる側面もあるかもしれない。しかし自分の思考や概念にないことをイメージすることは動物飼育にとって重要なのではないかと考える。それは人が何を考えているかを読み取ることよりも、動物が何を考えているかを読み取ることのほうが難しいからである。特に爬虫類は表情筋が発達しておらず、また性質上哺乳類の概念が通用しない場合も多いため、何を考えているのかを読み取ることに観察が必要な動物である。動物の擬人化を否定する気はないが、生体の立場になって考えるということが飼育のコツの一つなのではないかと考える(偉そうに言ってはいるが、それに若干依存気味の結果ヘビが苦手という・・・笑)。そのためにもまずは人からということと、爬虫類という動物に偏見があると感じることも少なくないため、人との関係を考察することによって誤解が解消され、少しでも理解が明るくなればと考えているのである。ただ書いておいてこれでは明るくはならないなと思っている。
参考文献
中井穂瑞領 2020 『ヘビ大図鑑 ボア・ニシキヘビ編』 誠文堂新光社
R.&D.モリス 2006 『人間とヘビ』 平凡社