本をつんだ小舟によせて 11
~松尾 スズキ著 同姓同名小説 他 ~
コージー富田さんが、タモリさんの口調でいかにも言いそうなことを言う芸は秀逸だと思う。この場合本当にいったかいっていないかはもはや重要でなく、いかにも言いそう、というのが大切となる。まさに、事実は一つ、真実は複数である(ちょっと違う?)。
そして、その芸は尊敬と誇張や崩しなどがうまくブレンドされてこそ生まれる芸といえる(犬とチャーハンの間のすきま(by 町田 康)のように)。
本作もそのような趣向で記述されたものとなる。
例えるならば中学生の時、不良集団が、体育の先生の口調を真似て、“熊の倒し方”というコントを披露して僕は何回聞いても爆笑したが、そんな感じ。
彼の視点はいつもおもしろく、キックザカンクルーの名曲“上がってんのー、下がってんのー”の上がっているを血圧のことととらえているのは松尾さんくらいのものであろう(彼はまぁまぁの高血圧らしい)。
上品にあやかるという視点から考察すると、彼は誰もが知る芸能人をうまく2次活用しているといってもよいだろう。ただし、書かれた芸能人が喜んでいるかどうかは人によるであろうが。ナンシー関氏についても同じようなことが言えるのかもしれない。誰もが知っている人を誰も真似できない視点や切り口で語るという点で。
彼らの文章を読むと、私たちはともすれば、“前からこんなこと私も思っていた”となるかもしれないが、それは彼らの文章力がすごいがゆえに、スムーズに頭に入ってきすぎてそのような錯覚を起こすのだろう。
誰かの視点で語る、というおもしろさを堪能したいならぜひ。僕は哀川翔さんや竹内力さん本人は普通であるが、松尾さんが書く哀川翔さんや竹内力さんは大好きである。