本をつんだ小舟によせて 08
~ 宮本 輝著 道頓堀川 ~
今思うとAさんは私にとって、まち子姐さんのような人だったと思う。“道頓堀川”に登場するまち子姐さんは板前さんに料理をまかしていたが、Aさんはすこぶる料理上手で、彼女の作る天ぷらよりおいしい天ぷらを私は食べたことはほとんどない。
作者である宮本氏は料理の描写も巧みであり、金兵衛が提供する“ふぐ”やら“だいだい”の描写を見ると、食べてみたいな、となる。
他の作品でも、夜中に少量の濃い物が食べたくなり、中華街に赴くシーンがあるがこちらも秀逸である。
私が自分の将来を安易に占ってもらわない方がいいなという理由の一つに本作に登場する易者の杉山の存在があげられる。私は昔のことを引きずる傾向にあるが、相手にそれをされたら(昔の人が忘れられない等)、ちょっとつらいな、としみじみ思う。
私自身ビリヤードはからきしときているが、最後のシーンである親子のビリヤード対決の際、武内の頼みも聞こえないくらい、まち子姐さんを必死に追いかける主人公がたまらなく愛らしい。